- 2022.09.06
- インタビュー・対談
コロナ禍の心に潜む“明るすぎる闇”に迫った綿矢りさ新境地!――『嫌いなら呼ぶなよ』(綿矢りさ)
「オール讀物」編集部
Book Talk/最新作を語る
出典 : #オール讀物
ジャンル :
#小説
,#エンタメ・ミステリ
小説の中だけでも自由奔放に
ぴえん砲、クチャラー、ヒモ侍、繊細ヤクザ……コロナ禍の中で紡がれた四篇を収録する新刊には、ネットで見るような言葉がちりばめられている。
「口汚い小説ですみません(笑)。でもスラングでしか表現できないニュアンスがあるし、流行る言葉って語感がいいんです。校正さんからは“時すでにおすし”に“遅しデハ?”と何度も指摘が入ったり。今までになく攻防を繰り広げた作品でもありますね」
インスタで〈私のキラキラライフをおすそ分け〉している可愛いもの好きの、りな。顔の下半分を隠すマスク生活が快適な彼女だが、習慣的プチ整形が職場でばれて、鬱憤を溜める(「眼帯のミニーマウス」)。
「ポジティブなようで、外圧にはもろい。そういう人が抑えつけられて弾ける瞬間を書くのが好きなんです。現実ではブレーキを踏んでしまうところを、振り切れるのが小説の醍醐味なので。不自由を感じる世情だからこそ、主人公たちを普段以上に自由にはっちゃけさせたのかもしれません」
表題作で、久々のホームパーティーと思いきや自身の不倫弾劾のため仕組まれた場だと知る主人公は、色事方面に振り切れた男だ。
「女性が寄ってくるから浮気は仕方ないと考えるタイプ。非難が沁みないし、反省もすぐ飽きる。この手は天然なので、責めても勝てないんですよね。『つ、強い』と呆れながら書きました」
〈おうち時間のほとんど〉を、動画視聴に費やした飲食店バイトの“私”はYouTuberのファンになり、やがてアンチになっていく(「神田タ」)。昼日中からの酒類提供に走る、闇市のような飲み屋街の空気もリアルに描き出す。
「動画のコメント欄を見ると、発信者とファンの心理的距離の近さに驚きます。愛情ゆえに暴走している書き込みも多い。けど、受け取る側にとってはアンチでしかない。“痛い人”で片付けるのは簡単だけど、この熱量は一体何なのかを知りたかったんです」
巻末を飾るのは異色作「老(ロウ)は害(ガイ)で若(ジャク)も輩(ヤカラ)」だ。若手編集者の内田は、作家“綿矢りさ”とベテランライターの、原稿修正を巡るバトルの板挟みになる。飛び交うメールの、絶妙に嫌な気分にさせる文章に笑ってしまう。
「年の割にキャリアは長いという設定に、自分のプロフィールが一番使いやすかったんです。ここまで暴れたりはしないけど(笑)。ただ『綿矢ってこんな奴なのか』と誤解されるリスクよりも、書きたいことに一番適した方法を優先しました。それが自然に出来るようになったのは、若い頃より強くなった点かもしれませんね」
わたやりさ 1984年京都府生まれ。2001年『インストール』で文藝賞、04年『蹴りたい背中』で芥川賞受賞。『かわいそうだね?』『生のみ生のままで』など著書多数。