本年度が初開催となる「大人の恋愛小説大賞」は、大人がじっくり読める質の高い恋愛小説を発掘し、読者の皆様にひろく届けることを目的として創設されました。
本年度の選考委員は、川俣めぐみ氏(紀伊國屋書店横浜店)、大塚真祐子氏(三省堂書店成城店)、山本亮氏(大盛堂書店)、加藤ルカ氏(有隣堂横浜駅西口店)、花田菜々子氏(HMV&BOOKS日比谷コテージ店)の5氏。初めての選考会ながら、その議論は多岐にわたって非常に白熱! その模様を全文お届けします。
なお候補作については、令和2年10月1日から令和3年9月30日に刊行された単行本の中から、北上次郎、瀧井朝世、吉田伸子の3氏の推薦をもとに、下記5作品が候補作に選ばれました。
窪美澄『ははのれんあい』
佐々木愛『料理なんて愛なんて』
島本理生『2020年の恋人たち』
吉川トリコ『余命一年、男をかう』
綿矢りさ『オーラの発表会』
選考会に出席された書店員の皆さま(敬称略)
――小説には色々なジャンルがありますが、ここ最近“恋愛小説”は少し目立たなくなっているように感じます。漫画や映画、ドラマでは恋愛をテーマにした作品も人気ですが、若い世代に向けたものが多いです。そんなことを踏まえ、あえてこの賞は「大人の恋愛小説大賞」とし、大人がじっくり読める質の高い恋愛小説を発掘できたらと考えています。
大塚 なにを基準に“大人”と判断するのかがとても難しいと思うのですが、“子ども”ではないという前提がありますよね。好きな相手に告白して成就する、とか、恋敵が出てきて三角関係になる、という若さが前面に出た恋愛というよりも、大人だからこその葛藤があったり、ステレオタイプな“恋愛”に留まらない多様な関係性が書かれている作品のような気がします。最近の作品だと、瀬戸内寂聴さんと井上光晴さんの関係を描いた『あちらにいる鬼』(井上荒野)が、大人の恋愛だなと思いました。
川俣 「大人の恋愛小説」と聞いて、まず最初にパッと思い浮かんだのが、江國香織さん、山本文緒さん、唯川恵さんの作品です。今読んでも全く古びていないですし、個人的にも大好きな作品ばかりなので、ああいう恋愛小説がまた出てきてほしいと思っています。最近の恋愛小説では、『明け方の若者たち』(カツセマサヒコ)や『ボクたちはみんな大人になれなかった』(燃え殻)などが人気ですけど、ノスタルジックな雰囲気の作品で、現在進行形の大人の恋愛とはちょっと違いますよね。
花田 私の考える「大人の恋愛小説」は、主人公が相手に対してラブ全開で「好きだー!」と叫んでいるような雰囲気の作品ではなく、もっと自制の利いたストイックな感じの作品です。相手のことが好きなんだけど、その恋は実らなくて、最終的にはその経験を糧に生きていく、というような……。『ののはな通信』(三浦しをん)は、女性同士のお話ですが、とても恋愛小説らしい作品で好きでした。
最近は、フェミニズムや性の多様性をテーマにした作品がたくさん出てきています。人と人が共に生きていく上で、その関係性は必ずしも“恋愛”でなくてもいいのではないか、という文脈で書かれた作品が多い印象です。そもそも異性愛である必要もないし、女同士で楽しく暮らすのもいい、契約結婚という形もあるよね、といったいわゆる王道の恋愛小説とは違った作品が増えてきました。個人的には、恋愛したい人は恋愛できる社会がいいですし、そんな人たちが面白いなと思える作品があってほしいと思っているので、今回は様々な恋愛小説を読めて良い機会でした。
山本 今回参加するにあたり、“大人”ってなんだろう、と考えていました。花田さんが仰った、多様性をテーマにした作品に対して、「私はこんな恋愛しない」とか「これは恋愛ではない」とか決めつけるのではなく、受け入れることができる人が、“大人”ということになるのかもしれません。僕の世代だと、性愛も含めてドロドロした事件が起こるのが恋愛小説だ、という刷り込みがあって(笑)、まず頭に浮かぶのは『失楽園』(渡辺淳一)です。当時は恋愛が娯楽として消費される時代だったからこそ、多くの人に読まれたのだと思います。
加藤 私は恋愛小説をあまり読んでこなかったので、はっきりとしたイメージがないのですが……売れ行きという点では、正直なところ恋愛小説というジャンルは今厳しいですね。ただ、高校生や大学生がキュンとするような作品はよく売れています。男性読者も多いので、性別を超えて共感できる作品が今求められているのではないでしょうか。
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