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才能は「遺伝」と「環境」どちらによるものか? 女流棋士の“取り替え”計画に2人の子どもが抱いた違和感とは

才能は「遺伝」と「環境」どちらによるものか? 女流棋士の“取り替え”計画に2人の子どもが抱いた違和感とは

白鳥 士郎

白鳥士郎が『ぼくらに嘘がひとつだけ』(綾崎隼 著)を読む

出典 : #週刊文春
ジャンル : #エンタメ・ミステリ

『ぼくらに嘘がひとつだけ』(綾崎隼 著)文藝春秋

 底辺に生きる女流棋士の独白。この小説は、将棋界の生々しい現実を読者に突きつけるところから始まる。

 幼少時から将棋が得意だった朝比奈睦美は、一度は看護師として働き始めるも夢を諦めきれず、年齢制限の迫る25歳で女流棋士になった。しかし厳しい勝負の世界で落ちこぼれ、30歳を目前に引退。結婚にも失敗する。

 離婚後に妊娠が発覚した睦美は自分の人生が「詰んだ」と絶望するが、そこに女流棋士時代の同期である梨穂子が現れる。プロ棋士の娘という恵まれた環境で育った梨穂子は、現役時代に睦美が憧れていたプロ棋士・長瀬厚仁の子を宿していた。将棋の才能を持たない睦美は、生まれた我が子にせめて「恵まれた環境」を与えるため、恐ろしい計画を思いついてしまう……自分の子と、梨穂子の子を、取り替えるという計画を。

 やがて成長した二人の子供たちは、引き寄せられるかのように将棋の世界で出会い、そしてお互いの境遇に違和感を抱いていくのだが……。

 著者の綾崎隼は電撃小説大賞出身。いわゆるライトノベル・ライト文芸と呼ばれるジャンルでデビューしたが、現在は活動の場を一般文芸の世界へ広げている。そんな綾崎の作品を愛読する将棋関係者は多く、SNSに感想をアップする女流棋士も存在するほどだ。本作はスマッシュヒットとなった『盤上に君はもういない』に続く2作目の将棋小説だが、トップ棋士である佐藤天彦九段への公開取材を行うなど、より深く将棋という題材を知った上で書かれている。

 ライトノベルはキャラクター文芸とも呼ばれるが、そこで培った経験により、実に魅力的な登場人物の数々を著者は創造する。強さを求める彼ら・彼女らは世間一般から見るとあまりにも利己的だが、不思議なことに誰一人として憎めない。他者への嫉妬や己への絶望といったどす黒い感情を抱こうとも、将棋に対する思いだけは真っ直ぐなままだからだろうか。過去作と比べて人物造形の幅は明らかに広がっている。将棋界の人間と実際に接する過程で、これまでの綾崎作品には見られなかったタイプのキャラクターが生まれたのだとしたら、これほど幸福な出会いは稀だろう。

単行本
ぼくらに嘘がひとつだけ
綾崎隼

定価:1,760円(税込)発売日:2022年07月25日

電子書籍
ぼくらに嘘がひとつだけ
綾崎隼

発売日:2022年07月25日

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