- 2022.07.29
- インタビュー・対談
才能を決めるのは遺伝子か、それとも環境なのか?――『ぼくらに嘘がひとつだけ』(綾崎隼)
「オール讀物」編集部
Book Talk/最新作を語る
出典 : #オール讀物
ジャンル :
#小説
,#エンタメ・ミステリ
将棋の才能は何で決まるか
綾崎隼さんの新作『ぼくらに嘘がひとつだけ』は、プロ棋士を目指す少年と家族の物語。しのぎを削りあう奨励会を舞台に、才能を決めるのは遺伝子か環境かを、問いかける。
「デビュー当時『三年で夫婦の話を、五年で親子の話を書けるようになりたい』と思っていました。十二年かかりましたが、ようやくこの作品で、親子の物語をしっかり描けたという手ごたえがあります」
主人公の長瀬京介は、タイトル戦にも挑むプロ棋士の父・厚仁の姿を見て、自ずとプロを目指すようになった。一方、友人の朝比奈千明は、志半ばで将棋から離れた元女流棋士をシングルマザーに持つ。新進棋士奨励会で出会った二人は、同じ病院で生まれ、誕生日がたったの一日違い。しかし、将棋一家に生まれた京介と、経済的に苦しい家庭で育った千明では、与えられた環境が大きく異なっていた。
小学生の頃から将棋に親しんできた綾崎さんが将棋小説に取り組んだのは、本作で二度目。前作『盤上に君はもういない』を執筆し、より棋界の面白さに引き込まれたという。
「将棋小説を書く理由の一つが、これまで女性のプロ棋士が誕生していないことへの怒りです。ただ、女流棋士と女性プロ棋士の違いを描いただけでは、単純に優劣をつけていると受け取られかねません。壁が存在する以上仕方がないとはいえ、葛藤もありました。そこで今作では、奨励会や女流棋士の戦いを、華やかではない場所から書き始めました。前作では触れられなかった棋界に関わる様々な人間を、思う存分、描けたような気がします」
強い将棋愛に加え、本作構想のきっかけは第二のテーマ「出生時の取り違え」にあった。
遅れて奨励会員になった千明に差をつけられ始めた京介は、周囲の話や直感、薦められて読んだ本から、自分たちが取り違えられたのかもしれないとの疑いを持つ。二人は相談し、対局の記録係をして貯めたお金で、DNA鑑定を行うことになるが――。
「新生児の取り違えは、親目線で描かれる場合が多いように感じます。でも子供の苦しみは、それ以上に重要かつ複雑なはずです。だからこそ、いつか子供目線で描きたいと考えていました」
今回の新刊は、作家生活における道標としての意味もある。
「ここから次の十年間がスタートすると思っているので、再デビューするくらいの感覚で書きました。同時に、勝負作だとも感じているので、多くの方に読んでもらえるよう願っています」
あやさきしゅん 1981年新潟県生まれ。2010年『蒼空時雨』でデビュー。『死にたがりの君に贈る物語』、「花鳥風月」シリーズ、「君と時計」シリーズなど著書多数。
綾崎隼さん『ぼくらに嘘がひとつだけ』発売記念インタビューはこちらから
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