道尾秀介さんの新刊『いけないⅡ』(文藝春秋)の発売から1週間、早くもSNS上に多数の感想が投稿されている。読者の方々の反応に、道尾さんはどんな手ごたえを感じているのだろうか。
――早速の大反響をどう受け取られましたか?
読み終えたあと、自分の推理が正解なのか他の誰かと話したくなるだろうし、SNSとは相性が良いと思っていましたが、想像していた以上の反響でした。すべての謎を解いた読者が、「分からない方はDMしてもらえたらお答えします」などといった投稿をしていて、読者同士のコミュニケーションが始まっている場面もあったり。「特に好きな章」を挙げている人もいて、でもそれが人によって違うのもうれしいですね。
――「すべて解けた」という方もいれば、「終章だけ分からない」、「騙されないぞと思って読んだのに」など、皆さんの謎解き具合も様々なようです。
ミステリーとしての難易度の設定はいちばん考えたところです。最適なところに設定できたという自信はあったのですが、本当にそうなっているかどうかは本が出てみないと分からない。実際に最適な難易度になっていたんだなと、SNSを見て実感できました。
――「前作を超えてきた!」という驚愕の声も多く見られます。
『いけない』はあれだけ評判になり、よく売れてもくれました。『いけないⅡ』を出すときに、前作のほうが良かったと言われるのがいちばん怖いことだったので、ほっとしました。「このシリーズ無限にやってくれ」という投稿もあって、「無限」はたいへんだけど(笑)、めちゃめちゃうれしかったです。また、各章のアイディアや完成度を突き詰めることはもちろんですが、今回は全体をひとつの物語として届けることにかなり注力してこだわりました。各章の語り手も老若男女ばらばらにして、かつ章ごとに文体と趣向を変えて書くことで、物語全体を立体的に立ち上げたんです。「ストーリー的にも今作の方が好き」とか「人間模様がリアル」とか「風景描写が、緻密で美しい」「ギミックもさることながら物語としても超クオリティ高い」といった感想を見ると、苦心して作り上げた箕氷市という架空の街の奇妙さ、怖さ、魅力を味わってもらえたことがわかり、報われた思いです。
――作品の衝撃度が刺激したのか、感想にも「神に弄ばれてる気分だ」「地獄のアハ体験」などなど、パワーワードがたくさん並びます。特に印象に残ったフレーズは?
何人かの方が書いてくれた「記憶を消してもう一度読みたい」です。クリシェとしては使われる表現でありますが、気持ちのこもった投稿でこんなにたくさん使われるのは個人的に見たことがなかった。僕自身がそうしてみたいからこそ、とても印象的でした。作者である自分には、この本を読んで驚くことと、推理すること、このふたつだけは絶対にできないから(笑)。記憶を消して、自分も『いけないⅡ』を体験してみたいですね。
――悪評も飛び交いやすいSNSですが、『いけないⅡ』についてはまったく見られないのも、うれしい驚きです。その中で、欠点を挙げている方がいました。「唯一の欠点はオススメしようとすればするほどネタバレになること」……おっしゃる通りです(苦笑)。
そう、「最後の写真を見ると何かが起きる」というシステム以外、言えるところが何もない。ただ感想投稿を見ていると、気がつけば2周目、3周目を読んでくれていたという方が多くいます。コスパという言葉がありますよね。本づくりにお金がかかる以上、コストのほうはあまり変えることができない。でも、パフォーマンスは、何回も味わってもらうことでどんどん上がっていく、そんな“コスパの良い”作品が書けたんだなあと思います。