- 2022.10.28
- インタビュー・対談
老舗陶器店の跡取り息子は妻に殺されたのか!? 家族内で渦巻く疑惑の行方は――『クロコダイル・ティアーズ』(雫井脩介)
「オール讀物」編集部
Book Talk/最新作を語る
出典 : #オール讀物
ジャンル :
#小説
,#エンタメ・ミステリ
悲劇の未亡人か、稀代の悪女か!?
鎌倉近くの町で老舗の陶磁器店を営む初老の夫婦を、衝撃的な事件が襲った。跡継ぎにと期待していた働き盛りの一人息子が殺されたのだ。逮捕された犯人は、なんと息子の妻・想代子(そよこ)の元交際相手。さらにショッキングなことに、被告人となったこの嫁の元カレは、裁判の最後で「想代子から夫殺しを頼まれた」と主張したのである。
「息子を殺したのはあの子よ」
「馬鹿を言うな。俺たちは家族じゃないか」
五年前に嫁に来た時から想代子と折り合いが悪かった姑の暁美(あきみ)は疑念を抑えきれないが、孫を溺愛している舅の貞彦(さだひこ)は嫁を信じたいと願う――。
雫井さん待望の新刊は、一心同体と思われていた“家族”の内側に突如として広がっていく“疑心暗鬼の闇”を徹底的に描いたミステリーである。
まず意味深なタイトルに目が行く。直訳すれば「ワニの涙」であるcroco-dile tearsとは、古くは古代ローマ時代の表現に由来する、「嘘泣き」を意味する言葉なのだという。
「想代子の人物像がこの物語の肝なので、彼女に関する言葉をタイトルに据えたいとずっと悩んでいました。小説の中で、夫を殺された想代子はおそらく涙を流すであろう、しかし周囲からはそれが嘘泣きと見えるんじゃないだろうか――。こう考えた時、crocodile tearsという言葉に行き当たりました。獲物を捕食する際、ワニが涙を流すことから『嘘泣き』の意味が生まれたらしいのですが、獲物を食べる時に流す涙ってミステリーっぽいし、悪女を連想させますよね。この言葉に出会って想代子のキャラが固まり、物語のピースがピタッと嵌まり、プロットも決まっていきました」
いったん生まれた疑惑の影は徐々に広がっていく。当初、「焼き鮭が塩辛い」「どこで買ったの?」「私を早死にさせたいの?」といったありがちな嫁姑トラブルに見えたものが、しだいにケガを伴う不可解な事故や、盗難事件へとエスカレートしていく。最後まで想代子の内面が描かれないことで、暁美たち家族も、そして読者も、彼女の一挙手一投足に戦慄せずにはいられなくなるのだ。
「嫁の本心がわからないからこそ、単なる嫁姑の行き違いを超えて、あの嫁の心の奥には悪意があるんじゃないか、家族を滅茶苦茶にしようと意図してやってるんじゃないか、そんな疑念が、嫁と姑、夫婦の間でもぶつかり合い、家族が軋んでいくのです。想代子の人間性をめぐる物語の展開を、究極のサスペンスとして楽しんでもらえたら嬉しいですね」
しずくいしゅうすけ 1968年生まれ。1999年『栄光一途』で新潮ミステリー倶楽部賞を受賞しデビュー。『犯人に告ぐ』で大藪春彦賞。近著に『霧をはらう』等がある。
◆雫井脩介さん『クロコダイル・ティアーズ』の朗読がこちらからお聴きいただけます
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