- 2022.10.31
- インタビュー・対談
最後の写真を見たとき、物語は一変する。果たして真実を見抜けるか!?――『いけないⅡ』(道尾秀介)
「オール讀物」編集部
Book Talk/最新作を語る
出典 : #オール讀物
ジャンル :
#小説
,#エンタメ・ミステリ
進化し続ける体験型ミステリー
各章最後に挿し挟まれる一枚の写真により、物語のもう一つの真相が明かされる『いけない』。自力で推理する“体験型”として大反響を呼んだミステリーに、待望の第二弾が登場した。
「いつも“これ以外のエンディングはあり得ない”という物語を書いているので、よほどのことがないと続編は書かないんです。でも『いけない』の場合は、前作を書き終えた段階で写真の使い方にまだまだ可能性を感じていたので、物語の続きとしてではなく、同じ仕掛けのまったく別の表現としての“Ⅱ”が完成しました」
写真が鍵を握る点は前作同様だが、舞台も登場人物も別物。どちらからでも独立して楽しめるのも、シリーズとしては珍しい。
「どっちを先に読むかで印象も変わるかもしれませんね。SNSなどの反応を見ると、前作と比較してⅡのほうが、ひとたび真相へのルートを発見した瞬間、100%間違いないと自信を持てる読者が多いようです。第一章を読了して『どういうこと?』と書き込んだ読者が九分後に『わかった!!』と更新していて、閃くまでのタイムラグとしては理想的だと思いました」
第一章では、一年前に失踪した姉を待つ妹、氷瀑の近くにある山小屋の管理人、行方不明事件を捜査する若手刑事らの物語が交錯する。第二章では肝試しに出かける小学生のひと夏の冒険、第三章では無職の息子を殺したという老人と警察の攻防――と、同じ市内で起きる三つの出来事が描かれる。そして終章、無関係のはずの各章の物語が思いも寄らない形で絡み合う。すべてが巻末に置かれた一枚の写真と、それが明かす真相に収斂するラストは鳥肌ものだが、各章を執筆中はまだ、何をどう繋ぐかは決めていなかった。
「雑誌に一章ずつ掲載する際には、その章を完璧に仕上げることに専念するので、先のことは考えません。終章を書いたら遡って修正する点も出てくると思っていたのですが、結果的にはほとんど直さずに収束しましたね。伏線を入れ直したりすると作者の手つきが見え易くなるし、どの章も思い入れがあって変えたくない気持ちは強かったので、最高のエンディングでした」
文章と写真、二つの材料を組み合わせて作るため、通常の小説よりもバリエーションは広がるという。
「『記憶を消してもう一回読みたい』という嬉しい感想をよく見かけるんですが、実はそれを一番願っているのは僕で、作者の記憶を消して読者になってみたい(笑)。一章書くごとに三キロ痩せた程、ハードな仕事ですが、いつかまたⅢにも取り組みたいですね」
みちおしゅうすけ 1975年生まれ。2007年『シャドウ』で本格ミステリ大賞、09年『カラスの親指』で日本推理作家協会賞、11年『月と蟹』で直木賞など受賞多数。
◆こちらから道尾秀介さんによる『いけないⅡ』の朗読がこちらからお聴きいただけます。