- 2022.11.04
- インタビュー・対談
生まれながらに山内を守ることを宿命づけられた皇子の成長と葛藤――『烏の緑羽』(阿部智里)
「オール讀物」編集部
Book Talk/最新作を語る
出典 : #オール讀物
ジャンル :
#小説
,#エンタメ・ミステリ
過去から再発見する、八咫烏の世界
「八咫烏シリーズにおいて、クライマックス前の一休みと言えるような作品になりました。これまでの登場人物たちに区切りをつける意味合いもあります。シリーズ完結に向けての下準備と言えるかもしれません」
今年デビュー10周年を迎えた阿部智里さん待望の新刊『烏の緑羽』。山内を統べる「真の金烏」の兄・長束とその周囲の視点から、過去を振り返る展開になっている。
「執筆に際して最初に頭に浮かんだのは、地方に籠っている元軍師・翠寛に長束が会いに行くシーンでした。この場面を書きたいと思って、そこから膨らませていきました。これまでを新たにとらえ直す構成ですが、時系列に並べていては物語になりません。登場人物の内面と、読者の方々の感覚がリンクするよう調整しました。加えて今まで詳しくは触れてこなかった谷間など、ダークな部分も描いています。センシティブな要素を含むので、誤解なく伝えるのに悩みもしましたね」
実は、本作はシリーズ第四作『空棺の烏』のセルフオマージュという面も併せ持っているという。
「視点人物の移り変わりは、まさに『空棺』を意識していました。舞台の一つとなる近衛兵の養成学校・勁草院は同作ですでに作り上げた場所だったので、再び見に行くような懐かしい感覚がありました」
そして本作で「路近はなぜ長束に忠誠を誓うことになったのか」という謎がついに明かされる。
「路近の胸の内が分かったら面白いと考えていて、いつか書きたいと仕込んでいました。ただ物語の謎をすべて解く必要はないとも思っています。現実世界だって、そうですから。読者の方々に想像していただくことで完成する部分も、小説には存在するはずです」
作家として、自分が読みたいものを書く姿勢を大切にする阿部さん。自らの作品への目線は常に厳しいが、今作で達成できたと言える部分もある。
「基本的に、自分が書いた小説を読み返すのが嫌なんです。ただ、強いて言うならば、前作『追憶の烏』と同じ時間軸のラストのシーンは書けてよかったですね。『絶対に書く』と思っていた場面でした。さらに、シリーズ全体に張っていた伏線をある程度回収できているなという感覚も持っています」
累計180万部突破の大人気シリーズだが、物語の完結は迫っている。
「現実ではただの人ですが、自分の作品世界において作者は神です。終わらせる難しさもあるでしょうけれど、それも生みの苦しみのうちと言えるのではないでしょうか」
あべちさと 1991年生まれ。2012年、大学在学時に『烏に単は似合わない』で松本清張賞を受賞しデビュー。来年度から同賞選考委員を務める。今作はシリーズ11作目。
◆阿部智里さんによる『烏の緑羽』の朗読はこちらからお聴きいただけます。