- 2023.01.06
- インタビュー・対談
「社労士のヒナコ」シリーズ著者・水生大海さんに聞く「時代を写すお仕事小説」の魅力
『希望のカケラ 社労士のヒナコ』(水生 大海)
出典 : #文春文庫
ジャンル :
#エンタメ・ミステリ
水生大海さんの人気シリーズ「社労士のヒナコ」の最新刊『希望のカケラ』がいよいよ刊行されました。社会保険労務士を主人公にした、労務問題×ミステリーという組み合わせが支持を受け、ますます読者の共感を呼んでいるシリーズです。
1巻目の『ひよっこ社労士のヒナコ』では、タイトル通り新米の社労士としてスタートしたヒナコこと朝倉雛子もまもなく30歳。「ヒヨコちゃん」と呼ばれていた時から、まる3年が過ぎました。
今作では2020年からはじまったコロナ禍で、持続化助成金の申請手続きや、リモートワーク中の副業など、「労働」の在り方の変化にも焦点が当てられ、ますます読み応えのあるシリーズになっている「社労士のヒナコ」。
水生さんにシリーズについて、お伺いしました。
誰でも直面しうる労働問題の“ヒーロー”社労士
ヒナコのシリーズは、もともとお仕事小説のアンソロジーで、各作家がそれぞれ違う職業の人を書くというところからスタートしました。
社労士を主人公に選んだのは、他の作家の方と被らなそうということと、自分自身、馴染みのある職業だったからです。
実は、わたしも、ヒナコのように派遣社員として働いていた時に、総務の仕事をしていたので、社労士の人と関わる機会も多かったんです。同じ派遣社員の中に、社労士の資格を持っている人もいました。
社労士が扱う労働問題というのは、会社で働く人であれば、だれでも直面しうる問題です。雇用主である会社側と、労働者である従業員との行き違いでトラブルが起こったときに、それを解消する役割を担うのが社労士だと思います。
社労士は、基本的には、会社側の立場で仕事を遂行するのですが、読者は従業員としての立場にある方が多いですよね。なので、ヒナコはその双方の気持ちを汲みつつ仕事をするヒーロー的なキャラクターになったと思います。
「社労士のヒナコ」シリーズの物語を考えるときは、まず、どういう労働問題を扱うか、というテーマから始めます。そこからざっくりとした物語を考えて、それにふさわしいキャラクターを配置する、という順番です。
キャラクターは個性的にしたいので、各話の相談者は多少オーバーなところもあったりしますね(笑)。
所長の妻である素子さんや、丹羽さんはヒナコのメンター的な役割を持っていて、女性の生き方や仕事の取り組み方を教えてくれる存在で、ヒナコは彼女たち先輩の背中を見ながら成長していく。特に、丹羽さんのように、非常に仕事ができるのに、結婚や出産で一回キャリアが閉じてしまう女性は多いので、彼女は書き甲斐がありますし、思い入れもあるキャラクターですね。
主人公のヒナコはもともと派遣社員で、資格をとって、「ひよっこ社労士」として仕事を始めたばかりの、不安定な状態からスタートしました。社労士という仕事柄としても、個人の性格としても社会のことが気になるタイプだと思います。
就活を控えた学生にもオススメのシリーズ
毎回のテーマは新聞やテレビで話題になっていることからヒントを得ます。
『希望のカケラ』では、副業問題や、男性の育児休業取得などを扱いましたが、男性の育休はずっと気になっていたテーマだったんです。今作は、特に管理職の立場にある男性に読んでいただきたいと思います。
ヒナコで書いているのは身近なテーマなので、読者の方や、同世代の知人からは「これから就職する子供に読ませたい」という声もいただきますね。
小説を書いている時は、いつも苦しいときのほうが多いんですけど(笑)、書いていると楽しくなってきます。ヒナコが勤める「やまだ社労士事務所」の人たちや、事務所で交わされる会話は書いていて、とても楽しい。
コロナ禍になって、いちばん変わったのは、なかなか対面で仕事の話ができなくなってしまったことです。私はもともと在宅仕事ですが、直接人と会わなければならない職業の人は特に大変だったと思います。
オンラインミーティングは便利ではありますが、距離感が変わったという実感があります。対面でなら感じられる空気感や、ちょっとした表情の変化や声のトーンを読むことが難しくなってしまいましたよね。
たとえば、「そこは安息の地か」は美容院の話ですが、これも、自分が行っている美容院の方から伺ったコロナ禍での状況から着想を得ました。
今作ではコロナの話を書くかは最初に迷ったところなんですが、このシリーズは時代を写す小説なので、いろいろ打ち合わせた結果、コロナのことを背景に入れようということになりました。
今後の展開はまだ、迷っているところです。ヒナコは独立するのか、あるいは事務所に後輩が入ってきて、ヒナコが指導する立場になるのか……。
特に女性は20代と30代で働き方が変わることが多いので、悩みどころではありますが、長く皆さんに楽しんでいただけるシリーズになれば、と思っています。
水生さんセレクト! 各巻の必読作品は……
『ひよっこ社労士のヒナコ』→「五度目の春のヒヨコ」
作品紹介:記念すべき「ヒナコ」シリーズ第1作。クライアント先の従業員の退職を巡る騒動に巻き込まれたヒナコ。不当解雇か、逆ギレ自主退職か……!? 会社と社員との間で食い違う証言の裏にある意外な真相とは。
水生:ミステリ的な仕掛けにこだわった一作です。真相と、その裏で動いていたキャラクターにもご注目ください。
『きみの正義は』→「わたしのための本を」
作品紹介:カフェチェーンの子会社となった書店で、残業未払い問題が発生? 書店を訪れたヒナコの眼の前で万引きが発生し……。
水生:万引きの裏にあったものというミステリ部分と、大手チェーン傘下となって苦労する店主たちの店への想いをあわせて書けた作品です。
『希望のカケラ』→「副業はユーチューバー」
作品紹介:リモートワークが進む文房具メーカー。ある社員が、就業中として申告している時間で、YouTube配信をしていたという告発文が送られてきた。副業としてのユーチューバー、ありか、なしか?
水生:コロナ禍で、働き方を模索する人々を描いた重めの話が多いのですが、そこに挟まれた清涼剤としての役割と、告発のゆくえのロジックにこだわりました。
水生大海(みずき・ひろみ)
三重県生まれ。2009年、島田荘司氏選考の第1回ばらのまち福山ミステリー文学新人賞優秀作を受賞した『少女たちの羅針盤』でデビュー。14年「五度目の春のヒヨコ」が第67回日本推理作家協会賞短編部門の候補に(『ひよっこ社労士のヒナコ』所収)。20年『ランチ探偵』『ランチ探偵 容疑者のレシピ』が「ランチ合コン探偵 ~恋とグルメと謎解きと~」のタイトルでTVドラマ化。「社労士のヒナコ」シリーズ、『冷たい手』など著書多数。
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『赤毛のアン論』松本侑子・著
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