- 2023.01.30
- 特集
デビュー作品がいきなり重版――高瀬乃一の『貸本屋おせん』は本屋さんに元気&勇気を与えてくれる物語!
文:「オール讀物」編集部
『貸本屋おせん』(高瀬 乃一)
ジャンル :
#歴史・時代小説
第100回オール讀物新人賞を満場一致で受賞、2022年単行本デビューを果たした高瀬乃一の『貸本屋おせん』。女手ひとつで貸本屋を営む〈おせん〉が活躍するビブリオ捕物帖は、発売直後からじわじわと評判を集めています。
新年早々に決まった重版を記念し、編集部に届いた全国の書店員さんからの声をご紹介――本好きの皆さん、ぜひご注目ください!
阿久津武信さん くまざわ書店錦糸町店
文化期の浅草に毅然と生きる天涯孤独の女性貸本屋という時代設定も人物造形も何となく面白そうな感じから手に取り読み始めたが、これが予想を遥かに超える面白さだった。
第一におせんが天涯孤独になった背景として、彫師だった父親の早死にがストーリーに必然的に絡んできて先を知りたいと思う気持ちからページを捲る手が一気に加速する。
第二に各章で起こる本にまつわる事件の謎が実によく練られており、時代小説であることを忘れて良くできたミステリを読まされているような感覚に陥る。
以上の大きな2つの魅力にこの小説の時代背景や江戸人情がテンポよく絡みリズムよく読み進めることができるので、気付いた時には読み終わっていたし、同じく本を扱う者としておせんを応援したくなる自分がいた。これで終わることなく今後も末長く続くシリーズ化を熱望!
内田俊明さん 八重洲ブックセンター営業部
「酒と同じさ。本にゃ罪はねえからな。」
版元、板木職人、貸本屋など、本を届けるために奮闘する、江戸の本屋の心意気に、清新の気が呼び起こされる。本屋を元気にしてくれる物語。
田口幹人さん 北上書房
なんと言っても最大の魅力は主人公のおせんである。天涯孤独という言葉から連想される逆境に耐え忍ぶしめった人物像とは違い、したたかに生き抜く強さと怖いもの知らずの危うさを兼ね備えた人物像は、新たなヒロインとして多くの読者を魅了するだろう。
そして何より、随所にちりばめられている本に対する考え方に共感を覚えた。
「善人も悪人も、同じ本を見て笑い悲しむ。ときに憤り、あきらめ、それでも次の丁をめくらずにはいられない。そして一度読まれた本は忘れさられて、みな現に戻っていく。本なんて、そんなもんだ。だから、せんは貸本屋として、本を守らなければならない」
その想いに至るおせんの本との関係に、様々な地域で一冊でも多くの本を人に届けるのだと奮闘する書店員の顔が浮かんだ。
(『小説新潮』1月号より)
森佳正さん 八戸ブックセンター
重版出来、おめでとうございます! 高瀬乃一先生が初の時代小説を書くための素材探しでお立ち寄りになり資料を購っていただいたご縁から、記念すべき第100回「オール讀物新人賞」受賞時より応援してきた者として、この受賞作がシリーズ化され「オール讀物」誌上で半年毎に3作掲載され、指折り2年の時を経て単行本となったことは、親戚の子が生まれたかのように喜ばしく、年明け新春の重版の報は、いやはや実にめでたいばかりです。
時は文化年間、江戸浅草の貸本梅鉢屋のおせんの出くわす、大江戸出版推理小説。内容を語ると野暮になる。とにかく読んで滅法おもしろい。まだもしお読みになっていない方々、ぜひWEBページの「立ち読みできます」からお試しあれ。馴染みの薄い江戸の出版事情も難なくすいすいと読めてしまうこと請け合いです。
本を読者の方々に結びつける、という意味で同業たる「貸本屋おせん」。その誕生の一端を担えたというのは、書店員冥利に尽きる感慨ひとしおの小説です。
市川淳一さん 丸善ラゾーナ川崎店
悲しい過去を抱えながらもたくましくしたたかに世を渡る、主人公おせんの魅力と、先が気になって仕方ない本にまつわる謎解きの数々。ほのぼの人情系だと思っていたら、いい意味で裏切られました。
ちょっと乾いた質感が読んでいて心地良かったです。最近の時代小説は素晴らしい作家さんが続々と現れますね!
◆高瀬乃一さんの重版記念インタビューが「本の話」ポッドキャストでお聴きいただけます
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『烏の緑羽』阿部智里・著
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