- 2023.03.27
- 文春オンライン
「父親は大便を食わされ衰弱死」「ミキサーで砕き、大鍋で煮込み、遺棄する手伝いをさせられ…」生き延びた17歳少女の“衝撃の証言”
永瀬 隼介
永瀬隼介が『完全ドキュメント 北九州監禁連続殺人事件』(小野一光 著)を読む
もう、やめてくれっ――。私は息を詰め、ページを繰りながら、幾度こう叫びたくなったことか。
日本犯罪史上最凶最悪のサディストにして詐欺師、松永太。本書は5歳から61歳まで、7人を長期間監禁し、想像を絶する拷問で嬲り、地上から消し去った鬼畜松永の半生と、複雑怪奇な連続殺人の真実に迫った、超ヘヴィ級のノンフィクションである。
日本中を震撼させた空前絶後の猟奇事件は2002年3月、監禁部屋から脱出した17歳の少女が警察に駆け込み、発覚している。松永は内縁の妻の緒方純子と共に“獲物”を物色。甘言を弄して取り込み、密室の拷問で服従させ、カネを、生命(いのち)をしゃぶり尽くした。著者は20年に及ぶ取材と膨大な司法資料の精査で、数多の新事実を炙り出し、地獄絵図の全貌を暴く。
辛くも生き延びた少女の証言は凄惨の一言である。まだ小学生の時分、父親(元不動産会社社員)と共に監禁され、松永考案の“通電”(電気コードで人体に電気ショックを与える拷問)で骨の髄まで響く激痛と恐怖を味わい、1年後、父親は心を病み、粗相した大便を食わされ、衰弱死している。
死体は松永の命で緒方純子が解体し、ミキサーで砕き、大鍋で煮込み、公衆便所等に遺棄。実の娘である少女も手伝いを強いられた。次いで純子の一家(両親、妹夫婦、幼い姪甥の計6人)を監禁、財産を根こそぎ奪った後は順次皆殺しに。
純子の厳格な父親も、元警察官の義弟も、無抵抗のまま嬲り殺された事実こそ、松永の洗脳支配の底知れぬ恐ろしさの証左である。
もっとも松永自身は決して殺しに手を染めず、言葉巧みに家族同士の殺し合いへと追い込んで行った。
その身も凍る悪魔の所業は本書に譲るが、松永の責任逃れは徹底しており、両親を殺された10歳の女児花奈(純子の姪)に対し、5歳の弟の殺害をこう促す。
「お前の弟やけ、お前が首を絞めろ」「生きていてもかわいそうじゃないか。(中略)お母さんのところに連れて行った方がいいんじゃないか」
弟を手にかけ、最後の一人となった花奈の運命は残酷だ。以下、本書から引く。
〈松永は、全裸の花奈の手足をすのこに縛り付け、手足、顔面、陰部等にひどい通電をした〉
松永に言われるがまま、幼い姪を電気コードで絞め殺した純子も、元々は心優しき幼稚園教諭であった。松永と出逢わなければ、と詮無いことを思うのは私だけではないはず。
逮捕後、洗脳が解けた純子は深く悔悟するが、そのきっかけは松永が弁護士を通じて伝えてきた「死刑になりたくない。助けてくれ」との哀れな命乞いだった。
最後、著者は獄中の松永と面会を重ね、その卑劣で狡猾な臆病者の素顔を、臨場感たっぷりに描く。
61歳の死刑囚、松永太が死の恐怖に打ち震えていることを願うばかりである。
おのいっこう/1966年、福岡県北九州市生まれ。雑誌編集者、雑誌記者を経てフリーに。「戦場から風俗まで」をテーマに取材を行う。著書に『新版 家族喰い――尼崎連続変死事件の真相』『冷酷――座間9人殺害事件』『昭和の凶悪殺人事件』など。
ながせしゅんすけ/1960年、鹿児島県生まれ。作家。週刊誌記者を経て独立。小説の著書に『殺し屋の息子』『属国の銃弾』など。
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