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注目の現役弁護士作家の挑んだ特殊設定リーガル・ミステリー――『魔女の原罪』(五十嵐律人)

注目の現役弁護士作家の挑んだ特殊設定リーガル・ミステリー――『魔女の原罪』(五十嵐律人)

「オール讀物」編集部

Book Talk/最新作を語る

出典 : #オール讀物
ジャンル : #小説 ,#エンタメ・ミステリ

『魔女の原罪』(五十嵐 律人)

現代版「魔女裁判」のゆくえ

 デビュー作『法廷遊戯』から、気鋭のリーガル・ミステリー作家として、話題作を刊行してきた五十嵐律人さん。現役の弁護士ならではの時代に寄りそう作品で、最新作『魔女の原罪』でも冴えた筆致を見せている。

「弁護士として法律を扱うときは、依頼者一人のために考えますが、作家としては、より幅広い読者に向けて伝えたいものがあります。なので、同じ法律を使った仕事でも、考える土台は違いますね」

 今作は「現代版魔女裁判」がテーマだ。

「中世の魔女狩りや、それに基づく魔女裁判は、法律的に前時代的なものです。当時の理不尽な出来事を魔女のせいにする、悪しきものとして一般的には評価をされていますが、ずっと現代版の魔女裁判を書きたいという気持ちがありました」

 その舞台として選ばれたのは、「法律に違反しないことであれば何をしても自由」というルールの鏡沢高校がある鏡沢町だ。

 週三回、両親のクリニックで人工透析を受けている高校生の宏哉(こうや)は、同じく人工透析を受ける同級生の杏梨(あいり)から、「現代の魔女」について話題をふられる。「魔女は世界を穢す存在なんだよ」――その杏梨の言葉の意味は、のちに明らかになる。

「タイトルにもある原罪というのは、自分の力ではどうしようもできない、理不尽な出来事が降りかかった人々の抱えた苦しみです。犯罪が起きた時に、海外と比べて日本では、家族は一心同体であり、犯罪者の家族もその罪を償うべきだという声が向けられることが多いことに違和感がありました」

 校内で発生した盗難事件で犯人と名指しされた男子・達弥がいじめに遭うようになる。宏哉は法律のルールを駆使して事態の解決を試みるが、さなかに杏梨が行方不明に。十一日後、彼女の遺体が発見され、宏哉の母親が事件の容疑者として逮捕されてしまう。

 宏哉は高校の教師であり、弁護士資格を持つ佐瀬の力を借りながら、街全体を覆う暗い事実と、隠されていた秘密に向き合うことに――。

「僕はまだ、主人公たちに近い子ども寄りな人間なので、懸命に生きる彼らが信頼できる大人に救われてほしいと思うんです。幼さゆえのやるせなさも切なさも、僕がもっと大人になったら書けなくなってしまうかもしれません(笑)。でも、法律家として働くことで得た経験や知識で、デビュー前から書きたいと思っていた大きなテーマに、より踏み込んで書けるようになったのは良い方向の成長だと思います」


いがらしりつと 1990年生まれ。東北大学法科大学院卒。2020年『法廷遊戯』でメフィスト賞を受賞しデビュー。弁護士としても活動中。著書に『不可逆少年』『六法推理』など。


(「オール讀物」5月号より)

オール讀物 2023年5月号

 

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五十嵐律人

定価:1,870円(税込)発売日:2023年04月24日

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五十嵐律人

発売日:2023年04月24日

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