『週刊文春WOMAN』にて足かけ6年にわたり連載されたジェーン・スーさんの初インタビューエッセイが、この度『闘いの庭 咲く女 彼女がそこにいる理由』として書籍化されました。
刊行を記念し、3月30日(木)、本にも登場するスタイリスト・ファッションディレクターの大草直子さんとジェーン・スーさんとのスペシャルトークイベントを開催! 会場にはなんと2,000名近くもの応募者から抽選で選ばれた50名の参加者が足を運び、配信された動画は2.8万回再生(4月17日現在)を記録しています。
イベントは『週刊文春WOMAN』および『CREA』編集長の井﨑彩が進行。開始早々からスーさんのざっくばらんな一言で会場は一気にアットホームな雰囲気に。盛り上がりに盛り上がったトークの一部をレポートします!
不安定な時期を重ねて、少しずつ自分を信じられるように
井﨑 お二人とも、今日はありがとうございます。まずお二人のご関係というのは……
スー 井﨑さん、めっちゃ緊張してますね、今日。慣れてない結婚式の司会の人かと思って。「新郎と新婦の馴れ初めは」とか言い出すんじゃないかと(笑)。新郎新婦、自分たちで馴れ初め話すんで大丈夫です。
井﨑 すみません(笑)、お願いします。
スー 元々私は大草さんがすごく好きで。ご著書も全部読んでいますし、雑誌をめくればおしゃれのティップスをわかりやすく説明してくれて、おしゃれだなぁって。
大草さんのスタイリングを見て、ちゃんと芯がある人だなと思ったんですよ。だからすごくお話が聞きたかったんだけど、どうしたものかなって思ってたところにこの連載を始めて。最初から大草さんは話を聞きたい人リストに入っていました。
大草 えー、ありがたーい! 私も、スーさんが雑誌のエッセイで私のことを書いて下さっていて、「なんて光栄な」と思ってたんですよ。
スー 実際にお会いしてお話を聞いたら、大草さんは、いろんなとこにぶち当たりながらも、自分の形を見つけて自分の道を作っていくために本当に八面六臂の大奮闘していて、一生懸命やりすぎだよ! っていうくらい頑張っている。
なのに、大草さん本人は、「自分に自信がなかったり不安定だったりした時期があった」って言うんです。
大草 そうですね。大学生のときは、「これからどうやって生きていったらいいんだろう」とすごく引っ込み思案になって、とにかく人に会いたくない、みたいな時期がありましたね。
あと、1回目の離婚をしたとき。離婚ってかわいそうに思われたりするじゃないですか。それがすごく嫌で。
スー あの当時はね、今よりそうだったから。
大草 そうなんですよ、シングルマザーということもあって、余計に。でも、そういうのを経て、ちょっとずつちょっとずつ自信が持てたというか。自信って「自分を信じる」って書くから、自分を信じられるようになったっていう感じかな。
「自分はこれだけ持ってます」とか「これだけやってます」っていうアピールは今もないけど、ちょっとずつそういう訓練で、信じられるようになったっていう感じ。
自分自身を仔細に観察して、丸ごと受け止める
スー インタビューで一番記憶に残っているのが、大草さんが「とにかく働きたい、働きたいって思っていた」っておっしゃったことなんですよ。
なぜかと尋ねたら、「仕事以外は全部やってみて、どういう結果が出たか分かってきたから、あとは仕事にかけるしかなかった」って。そんなに切羽詰まっていたのか、自分を証明することに真剣だったんだなと思って。
大草 この本にある漫画家の一条ゆかり先生のお話が響きすぎちゃって、本当に最高で。詳しくは読んでいただきたいですけれど、私も同じ感じで、もう自分を信じるしかない、と。仕事はそのためのものだったかなと思いますね、やっぱり。
スー 今回の連載で13人の方とお話をして感じたのは、「自分と向き合う」とよく言うけれど、それはつまり、「私って何なのかな」っていう客観の目を持つことじゃないかなってことなんですよ。
大草 そういうことですね。
スー それがまさに大草さんのおっしゃっている“おしゃれ”じゃないですか。大草さんに最初「どうやったらおしゃれになりますか?」って聞いたら、「とにかくいっぱい自分の写真を撮って」って言われたんですよ。
大草 そうそう、そうなんですよ、まず自分を丸ごと知る、認めてあげるっていうことが一番大事で。 私は1日に2回、朝と夜、素っ裸の自分を見ているんです。そうすると、女性特有の揺れとか変化がすごくあるんですね。もちろん目も背けたい部分もあるけど、必ずそういうものを仔細に観察するようにしているの。
裸を見なくたって、横から見たときと後ろから見たときの自分って、結構違っていてびっくりすることがあって、それはもう写真という客観的な目でしかわからないんですよね。
スー 人から見た自分と自分が見る自分は違うからね。
大草 違います。そういう自分の無防備な状態を知るのは大事だと思いますね。
スー 人生単位でそれなんですよね。自分に自信を持つとか、人と比べたりしないとか、悩みの解決法の9割8分が「自分を知ること」なんですけど、それは大草さんが言っているおしゃれになる話と同じだなって思った。
大草 そうそう、同じだと思う。だから「自分という人間を仔細に観察する」、そして「自分という人間を丸ごと受け止めてあげる」っていうのが、まず大事かな。
居場所を自分で作った13人の女性たち
井﨑 先ほどスーさんからご著書に登場された13名の方のお話が出ました。私は編集者として連載に伴走させていただきましたけど、(この13名は)スーさんがこだわってこだわって選ばれた13名なんです。
スー そうですね。私、自分の居場所を自分で作った人に、すごく惹かれるんですよね。
たとえば、スタイリストと呼ばれる職業の人はたくさんいらっしゃるけれども、大草さんは私にとって、読者と積極的にコミュニケーションをとって、スタイリングをリアルな生活に落とし込んでいった第一人者という認識なんですよ。そうやって自分の居場所を作っていった人の話を聞きたかったんです。
大草 これは多分スーさんがやりたかったことだと思うんですけど、(この本は)ナイチンゲールとかヘレンケラーとか、そういう歴史上の人たちの伝記じゃないから、勝手に親近感や共有感をものすごく感じるし、なんていうか、女の人同士の結束力っていうのかな、それを感じたんですよね。
スー そうそう、そうなんですよ。なにが言いたかったかっていうと、頑張っている人の話って、どうしても「だってあの人は特別でしょ」とか「私とは違うから」って1歩目でスパンと(自分と)分けちゃう人がめちゃくちゃ多いのよ。
でも、「いや待って待って、多分違うと思うよ、だってあの人たちも普通の人だもん」って、私は言いたいの。
大草 うんうん。
スー インスタグラムに来るDMには相談事も多くて、とにかく、「自信がない」「心配だ」「不安です」っていう話がバリエーションを変えてずっと来るわけよ。全部それなわけ、究極的には。
でも、「多分それって自分の中で作ってるものだよ」って言いたいの。誰かが「あなたは不安に思うべきです」と言ってるわけではないよ、と。でね、私、世紀の大発見をしたんです。
大草 世紀の大発見?
スー あのですね、「自分に自信がない」「不安です」「心配です」ってずっと言っていて、一歩前に踏み出せないとか、自分が何者でもないって思い続けている人たちって、最初の傷は多分親とか友だちとか、そういう周りの環境によってつけられたものなんですよ、絶対。だって、生まれ落ちた瞬間から自信がないという人はいないから。
どこかの瞬間に傷つけられて、それに対して自分自身の生存戦略として、「ここで大きく期待を持つと後で傷つくぞ」とか、「自分自身を過信すると嫌な思いをするぞ」とかって、だんだん自分に対する期待を下げていったと思う。でも結局それがトゥーマッチになりすぎて、最初は防御のための壁だったのが、どんどん自分を小さく入れる箱みたいになっちゃってるんだよね。
大草 あぁ、なるほど。
スー そこに入っちゃったことによって、自分自身の可能性とかチャンスとか、自分で全部摘んじゃってるわけですよ。バリアを張って「ヤーッ!」って防御したんだけど、今は誰も攻撃していないのに、ずっと心配です不安です、できません、ヤーッ、ヤーッ! みたいに防御してる。だから、ほかの誰でもなく自分でバリアを解除しないといけないんですよ。
すごく大変だと思うけど、こういう本がきっかけで、自分で(バリアを)解除してもらえるチャンスになるかもな、と思っているんです。
何者かになれる可能性は死ぬ1秒前まで残しておけ
井﨑 今回は事前にお二人への質問を募集したのですが、まさに今のお話で、「何者にもなれなかった自分をどう受け入れていいかわかりません。プライドが高すぎる自分自身への評価や期待値を下げて、日々を穏やかに過ごすにはどのようなマインドセットで生きていけばよいでしょうか」というご質問がありました。よろしければ大草さんからお願いします。
大草 この質問って、逆説がちょっと入ってるなと思うんだけど。「何者にもなれなかった自分」っておっしゃってるじゃない? だけど「プライドが高い」ともおっしゃっていて、ちょっとないまぜになってるのが透けて見えたんです。
何者にもなれなかったっていうのは、わかりやすくいうとタイトルだったり肩書きだったり、もしかしたら有名になるとかお金を稼ぐとか、わかりやすい“何者”なのかしら。
スー そうだと思う。人によっては母とか妻とか、そういうタグだよね。これもやっぱり、自分で解除していくしかないんですよ。
この人は多分、何者かじゃないと自分は存在価値がないと思っているから、何者かになれない自分に対してすごく自罰的な思いを持ってるわけでしょう。でも、自分自身への期待値や評価を下げてまで日々を穏やかに過ごす必要はないんですよ。それがまさに「ヤーッ!」だから。本当に自分に対する期待値を下げるとかやめた方がいい。
大草 そう思う。
スー 「何者かにならないとこの世に存在してはいけない」と自分自身を規定してるんだとしたら、「そんな可哀想なことは今すぐやめろ」だし、「自分自身が何者かになれるかもしれない可能性っていうのは100%死ぬ1秒前まで残しておけ」だし。どだい何者かって自分で決めらんないのよ。
大草 世紀の発見第2。どうしても人ってわかりやすい肩書きとか役職、そういった社会的ないろいろな役割ってとこで見ちゃうから、まずそれ1回外したほうがいいね。
スー 自分がやりたいこととか、興味があることをやってみて、楽しい時間があったらそれで良しとしていくほうがいい。それでも満足がいかない虚栄心ととか承認欲求とかがあるんだったら、それはそれで人前に出る仕事をする上でのすごく必要なものだから、そういう仕事をするとかね。
30代前半は嫌いなことも含めて全部やったほうがいい
井﨑 続いての質問はすごくたくさんの方からいただいたんですけど、「30代、40代でやっておけばよかったと思われることはなんですか? 逆に30代、40代でそれほど必要ではなかったなということはありますか?」。
大草 私は、30代、40代でやらなければよかったということはないです。ないんだけど、3人の子どもに対しては、「仕事をしていればあれこれしてやれなくても当然かもしれない」っていう思いがちょっとあったなって、正直すごく思っています。
スー すごい正直だね。
大草 うん。もしあのときに戻れたら、また違うやり方があったかなとは思います。後悔とか反省とかとはまたちょっと違うんだけど。そのときは自分も精一杯だったし、やれることはやったって思ってはいたけど、冷静に今振り返ってみると、少しスルッと逃げていた部分はあるかなとは思います。
スー 私も、30代、40代でやっときゃよかったこともないし、やらなきゃよかったこともないかな。
大草 自分の歩んできた道が事実としてあるわけだもんね。
スー 『貴様いつまで女子でいるつもりだ問題』っていう本に書いたんですけど、30代の前半は、嫌いなことも含め、とにかくいろんなこと全部やった方がいいと思う。それで後からそれを選定するの。30代後半とか40代後半になってからで全然いいので。
スタイリスト・大草直子の3つの愛用品
井﨑 最後に、長年愛用されているお気に入りのものを3つ、お聞かせください。
大草 スタイリストなので私から3つ挙げると、シャネルの「マトラッセ」、トレンチコート、あとジャガー・ルクルトの「レベルソ」ですね。
スー 今の呪文みたいなやつ、何? 「ソ」しかわかんない。
大草 時計です。ジャガー・ルクルトのレベルソ。
スー あ、時計ね。
大草 それぞれなぜかというと、ある意味の発明品だから。シャネルのバッグ(マトラッセ)は、ココ・シャネルがチェーンバッグを開発して、女の人の両手をフリーにしたんですよ。だから活動範囲が増えて、荷物が増えて、生活の範囲が広がったっていう大発明なんですね。
トレンチコートは英国軍の雨具から始まったもので、手榴弾を下げるリングがついていたりとか、風と雨を避けるフラップがついたりとか、もう“用の美”なんですよ。それもすごく好き。
で、レベルソは、ポロの試合で時計が傷つかないように文字盤をくるっと裏返せるように開発したのが最初って言われているんです。そういった意味のあるものっておそらくこれから200年残っていくものだから、これからも大事にしたいなと思ってます。
スー すごい! 聞いている人、お金払ったほうがいい、今のとこだけでも。
自分の目指す方向を間違えず、得意なことを頑張り続けて
スー わし、どうしても今日、最後に言いたいことがあるんですわ。
大草 わしね(笑)。
スー いろんなことにチャレンジしていくのは素晴らしいんですよ、それは本当にいいことだと思う。だけど、例えば私がスタイリスト・大草直子に憧れて、「会いたい」「一緒に仕事をしたい」と思ったからといって、ファッションが全然わからないのにスタイリストになれば会えるんじゃないかって考えてもすごい遠回りなわけ。
逆に、自分の得意なこととか自分のやり続けられることを頑張って頑張っていけば、こうやって大草さんに会うチャンスがあるわけですよ。だから、「目指す方向を間違えないように」と。「いろんなものに手を出してちょっとずつ形になっても、それだとどこにも通じないんだよ。ただ単に肩書きのスラッシュが増えてくだけで、どこにも届かないんだよ」ってことなの。
いろんなこと試すのは全然いいんだけど、1個をやり続ければ他のことって絶対できるようになるから。それをね、若い人に言いたいなと思っていて。
大草 そうだね、うん。
井﨑 では、大草さんからも一言いただけますか?
大草 今日はご参加、ご視聴いただきましてありがとうございました。楽しかったです。
スーさんが自分のことをこうやって書いてくださっていることもあって、この本は何度も読み返しましたが、先輩たちはたくさんいらっしゃるけれど伝記ではないし遠い昔のことではないので、同じ景色を見て、同じ匂いを嗅いで、同じ風を感じて生きてきた、その人たちの生き様みたいなものを見ることができたのは、すごくよかったなと思います。
すごく勇気にもなるし、私自身、自分を信じるというか、「いいんだこれで」って思えたので、ぜひ、手に取っていただけたらなと思います。
スー 皆さんに何かをけしかけるつもりはないんですけど、とにかく本当に、「自信がないし不安だし」っていうのが少しでもなくなったらいいなと、私は祈っています。
「こうしたらいい」っていうことをハウツーで教えることはできないけど、そのきっかけになることがあったら、それをなんとか届ける方向で頑張っていきたいと思いますので、これからもよろしくお願いします。ということで。ありがとうございました。
こちらのトークイベントのアーカイブ動画は4月30日(日)23:59までCREA公式You Tubeチャンネルにて配信中です! 公開終了しました。
ジェーン・スー
1973年、東京生まれ。作詞家、コラムニスト、ラジオパーソナリティ。TBSラジオ「ジェーン・スー 生活は踊る」、ポッドキャスト「ジェーン・スーと堀井美香のOVER THE SUN」に出演中。『ひとまず上出来』(文藝春秋)、『きれいになりたい気がしてきた』(光文社)など著書多数。
大草直子(おおくさ・なおこ)
1972年、東京生まれ。スタイリスト。大学卒業後、現・ハースト婦人画報社へ入社。雑誌の編集に携わった後、独立しファッション誌、新聞、カタログを中心にスタイリングをこなすかたわら、イベント出演や執筆業にも精力的に取り組む。WEBメディア「AMARC」を主宰。
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