- 2023.06.12
- コラム・エッセイ
「ゆうれい居酒屋」が結ぶ縁――ホッピー三代目社長・石渡美奈さんのラジオに出演しました!
山口 恵以子
『写真館とコロッケ ゆうれい居酒屋3』(山口 恵以子)
出典 : #文春文庫
ジャンル :
#エンタメ・ミステリ
皆さま、『写真館とコロッケ ゆうれい居酒屋3』を読んでくださって、ありがとうございました。作品をお楽しみいただけたら、こんな嬉しいことはありません。
早いもので、今作でこのシリーズも三作目。そして今年からは、六月と十二月に新作をお届けできることになりました。冬になったらまた、書店さんでお手に取ってみてくださいね。
さて、前作『スパイシーな鯛』のあとがきにも書きました通り、作品の舞台である新小岩つながりで、地元の東京聖栄大学と、母のことでお世話になった平井の「魚政(うおまさ)」のご主人鈴木さんに、不思議なご縁がつながって、こういうこともあるのかと、しみじみ感慨にふけったものです。
すると今回もまた、新たなご縁に巡り合いました。
ホッピービバレッジ株式会社三代目社長の石渡美奈(いしわたりみな)さんは、自ら看板娘となって東奔西走、日本全国にホッピーの魅力を宣伝していらっしゃるのですが、その石渡さんがMCを務めるラジオ番組「看板娘ホッピー・ミーナのHOPPY HAPPY BAR」(月曜~金曜ニッポン放送・他)にゲスト出演させていただいたのです!
石渡さんは私の作品は読んだことがなかったそうですが、今年、とある空港の書店コーナーで何気なく『ゆうれい居酒屋』を手にしたら、いきなりホッピーが登場したのでビックリ。「是非番組にお呼びしたい!」と、とんとん拍子で出演が決まったのです。
ホッピーは低糖質、プリン体ゼロのヘルシー飲料です。私も今やすっかりホッピーファンです。スタジオで供していただいたホッピーはとても美味しくて、収録中にジョッキ二杯も飲んでしまいました(笑)。
そして第三話「新小岩のリル」に登場するエピソードは、実は私の実体験です。
十数年前、外遊びをしていた先代猫が家に帰ってこなくなり、私は朝晩近所を捜して回りましたが、見つかりませんでした。一週間過ぎて諦めかけ、当時食堂の同僚だったAさんに愚痴ったところ「それは迷子になったのよ。猫の臭いの付いた布を小さく切って、家の周りの電信柱に貼ると良いよ。猫が嗅げるように、低い位置にね」とアドバイスをしてくれました。すると、なんと、翌日に猫は無事に帰ってきたのです!
Aさんは私より五歳ほど年長で、とても気の合う友人であり、食堂の大変な時期を共に力を合わせて乗り切ってきた盟友でもあります。福祉や介護にも詳しくて、母に要介護認定を取るように勧めてくれたのも彼女でした。それまで私には自分の母親のことを役所に相談するという発想がなかったので、Aさんの助言でどれだけ助かったか分かりません。
編集者と新作の打ち合わせをしているうちに猫の話になり、自然とAさんの助言を思い出して、作品に取り入れました。「新小岩のリル」は感謝を込めて、Aさんに捧げます。
私の場合、偶然の成り行きでアイデアが浮かび、それが過去の実体験と結びついて作品として結実してゆくことがよくあります。だから「人生すべてネタ」と言っても過言ではありません。オレオレ詐欺に遭いそうになった経験も、DV猫に引っ掻かれて右手が腫れあがってしまった経験も、すべて作品の肥やしになりました。
これからも過去に経験したこと、これから経験すること、すべてを重ね合わせて、新しくなろうとしている新小岩を舞台に、色褪せぬ人の情を書いてゆきたいと思います。
皆さま、また冬の新作でお目にかかりましょう!
(「あとがき」より)