- 2022.12.21
- コラム・エッセイ
作品の舞台・新小岩の街が与えてくれたご縁とインスピレーション
山口 恵以子
『スパイシーな鯛 ゆうれい居酒屋2』(山口 恵以子)
出典 : #文春文庫
ジャンル :
#エンタメ・ミステリ
皆様、『スパイシーな鯛 ゆうれい居酒屋2』を読んでくださって、ありがとうございました。
皆様に応援していただいたおかげで、この作品もシリーズ化が決まりました。作者として、こんなに嬉しいことはありません。心から御礼申し上げます。
第一巻のあとがきにも書きましたが、新小岩は自宅から一番近い電車の駅だったので、子供の頃から馴染みの街でした。小学生時代は日本舞踊の稽古に週三回通っていました。通算すればルミエール商店街を何往復したことでしょう。
ところが三十数年前、我が家は別の街に引っ越して、最寄り駅が東京メトロ東西線葛西駅に変わり、それ以来新小岩とはすっかり疎遠になってしまいました。
今回『ゆうれい居酒屋』を書くに際してロケハンしたところ、街の変わりようは目を見張るほどで、昔から知っているお店で健在なのは「第一書林」始め、ほんの数軒だけでした。特にエスニック関連のお店が増えたことが、一番の驚きでした。
それでも一歩路地裏に入れば、昭和レトロな居酒屋やスナックもあって、懐かしい気分になりました。本文にも登場するスナック「優子」はその時発見して、偶然にも担当編集者と同名だったので「いただき!」となりました(笑)。
今年の五月、新小岩にある東京聖栄大学のF先生から、講義のご依頼をいただきました。正直「新小岩に聖栄大学なんてあったっけ?」と思いましたら、聖徳栄養短期大学を母体として二〇〇五年に開学した大学で、新小岩駅北口方面に校舎が何棟も建っていて、こんな立派な学校だったのかと、自分の認識不足に恥じ入った次第です。
地元出身の教授もいらして、年齢も近いことから、講義前は昔話(おしゃれだった「レストラン・ミナト」とか)で大いに盛り上がってしまいました。
学生さんは女性が大半かと思いきや、男女半々くらいの割合で、若い男女の前で講義する機会はほとんどないので、私としても貴重な体験をさせていただきました。
終了後、F先生を平井のお店(鰻料理の名店「魚政(うおまさ)」)にお誘いしたら、ご主人の鈴木さんが「僕、聖徳の卒業生です!」と仰って、またまたびっくり。聖徳栄養短期大学で調理師の資格を取られたそうです。
鈴木さんは、亡き母を病院ではなく自宅で看取るために、重大な示唆を与えてくださった方です。その方と聖栄大学とのご縁が、巡り巡って私にまでつながったことが、本当に不思議で、ありがたく思われます。
そんな体験も踏まえて、本文にも聖栄大学に登場していただきました。
実は、第一話の昆虫少年のモデルは私の次兄です。ルミエール商店街で夏に虫を売っていた父娘がいたのも事実です。
それ以外は創作ですが、新小岩の街が与えてくれたご縁とインスピレーションに導かれて、本作品を書くことが出来たのだと思っています。だから、これからも書き続けていれば、またまた不思議な出会いと貴重なご縁に恵まれるのではないかと、ひそかに期待もしております。
変わりゆく新小岩の街を舞台に、変わらぬ人の情を描いてゆきたい。それが『ゆうれい居酒屋』に託す作者の思いです。
また次の『ゆうれい居酒屋3』でも、皆様と再会が叶いますように。
(「あとがき」より)
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