- 2023.07.28
- インタビュー・対談
1つの街を舞台に5つの世界線が5ジャンルの小説で交わる!?――『ノウイットオール あなただけが知っている』(森バジル)
「オール讀物」編集部
Book Talk/最新作を語る
ある選考委員から「我々への挑戦状ではないか」との言葉も飛び出した作品が、第30回松本清張賞を受賞した。
「前回の松本賞でも最終候補に残ったのですが、その小説は自分で納得できるクオリティではなかった。だからこそ今回は『これで世に出たい』と思える物語を目指して、執筆しました。『挑戦状だ!』と思って書いたわけではありませんが、自分のやりたかった表現を追求できた作品です」
選考会で物議を醸した理由は、見たことのないその小説の構成にある。
第1章は、ブラック・ジャックよろしく、高額な依頼料を要求する探偵が登場する本格推理小説。ところが一転、次の第2章では、高校生の男女コンビがM-1グランプリ優勝を目指す眩しい青春小説が描かれる。続いて科学小説、幻想小説、恋愛小説とジャンルを変えながら物語は進んでいく。
「10代の頃に読んだ『桐島、部活やめるってよ』や『チルドレン』といった小説から、完結した物が連なっていく面白さを知りました。各篇違うジャンルで連作短篇を構成したら、誰も見たことのない物語になるんじゃないかと思ったんです」
実は森さん、今回が2度目のデビューになる。
「社会人になってから、ライトノベルの新人賞であるスニーカー大賞に応募。優秀賞を頂きデビューしました。一方で、ラノベを取り巻く情勢だったり、何よりも自分の書きたいものが変化しているとも実感していて、思い切って再チャレンジしました。思えば中学生で初めて挑んだのは純文学の新人賞でしたし、書きたい気持ちはそのまま、目指す小説は変わり続けています」
タイトルの「ノウイットオール(know it all)」は「すべて知っている」とも直訳できるが、もう1つ“知ったかぶり”という意味も持つ。
「相手のことを100パーセント知るのは不可能で、誰かに言及するときは必ず“知ったかぶり”な言葉を孕むことになると思うんです。よく知る人物の未知の領域に、とんでもない秘密が隠れていることだってありえる。いまあなたの隣にいる人が、実はある大事件の主人公かもしれない。そう思うと、ロマンがありませんか?」
たとえば、名探偵が頭を悩ます事件の真相を、別の種族がよく知っているかもしれない。校内のかわいい女子を巡る争いが、時空を超えた世界で繰り広げられているかもしれない。
「読者の方だけが、この街で起こったことの全容を目撃できる。登場人物たちの“知ったかぶり”を『あなただけが知っている』物語でもあるんです」
もりばじる 1992年宮崎県生まれ。2018年、スニーカー大賞《秋》優秀賞を受賞し、『1/2―デュアル―死にすら値しない紅』を刊行。23年、本作で第30回松本清張賞を受賞し再デビュー。
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