- 2021.07.12
- インタビュー・対談
ジャンル不問の異種格闘技戦〈松本清張賞〉に勝ち残る作品とは!? 選考委員・中島京子×史上最年少受賞者・阿部智里
中島 京子 ,阿部 智里
出典 : #オール讀物
ジャンル :
#エンタメ・ミステリ
第28回松本清張賞は、選考委員の熱い支持を受けて波木銅さんの『万事快調〈オール・グリーンズ〉』が受賞。幅広いエンタメジャンルの人気作家を輩出してきた同賞について、史上最年少受賞者の阿部智里さんが、5年間選考委員を務めた中島京子さんと語り合いました。
松本清張賞はどのように選ばれているのか――。
中島 この対談の2日前がちょうど松本清張賞の選考委員会で、無事に選考委員としての5年間の大役を務め終えたところなんです。
阿部 清張賞の応募作品はジャンル不問で、色んなタイプの作品が最終候補に残りますよね。いわば異種格闘技戦の中から1作を選ぶのは、かなり大変なのではないでしょうか?
中島 その通りですけれど、やはりエンタテイメントとして「これだな!」という一作が選ばれてきたし、ほかの選考委員の先生方の話を聞くのも面白くて、5年間はあっという間でした。たとえばミステリーを書かれる選考委員の方であれば、ミステリーとしての作法がきちんと踏襲されているかという目線で読まれますが、私の場合はまた違った観点で作品を読みます。逆に歴史時代物は書かないし、あまり読まれないという方もいらっしゃるけれど、皆さん確固たる小説観のある方ばかりなので、それぞれのお話を聞くのがすごく楽しみでした。
阿部 最終的にはエンタメとして面白いものが選ばれるということになるわけですね。
中島 その評価をどこに置くのかも難しいんですけれど、清張賞に限らず新人賞全般に共通するのは、書き慣れている方が損をしてしまうところが少なからずあることです。受賞にいたるには小説として形が整っているということを凌駕する何かが求められていて、逆に小説として力があれば下手くそでも……下手くそと言うと失礼ですが(笑)、そういう作品が取っちゃうことがある。
阿部 応募作のパワーというか、勢いみたいなものですかね。私自身、応募作は全然書き慣れていなかったと思うのですが、勢いで取ってしまった感が(笑)。
中島 阿部さんは史上最年少の20歳で受賞されていますが、その前にも清張賞に応募を?
阿部 高校時代に応募して落選しています。その頃から賞の傾向やら先生方の選考基準やらを考えて、ずいぶん悩まされました。
中島 それこそ皆さん基準がバラバラだし、選考委員も毎年変わるので、対策を立てるのは難しいでしょう。
阿部 私が『烏に単は似合わない』で清張賞を受賞した時は、5人の選考委員の先生方がガラリと変わり、小池真理子さん、北村薫さん、山本兼一さん、石田衣良さん、桜庭一樹さんになりました。私の前年の受賞者は青山文平さんで、そのラインから考えれば、とうてい無理そうだったのが、石田さんと桜庭さんが対談で、「新しい作品、新しい力を」といった趣旨のことを話されていて、自分にもチャンスがあるかもしれない、と。あの時は、「ここでやってやるぞ!」と照準を合わせ、ワクワクしながら書いていたので楽しかったです。
中島 実際の選考会となると、競走馬として走るのは選考委員みたいなところがあって(笑)、賞を取れるか取れないかは選考委員との相性もあるし、横に並ぶ候補作にもよるので水ものだと思います。今年の清張賞の最終候補作は4作品どれも面白かったし、落選してしまった作品でも別の年だったら受賞していたかもしれない。気の毒な気持ちもありますけど、それも含めての新人賞ですからね。