戦国の世は「武」のみならず「智」の戦いの時代でもあった。簑輪諒さんの新作『化かしもの 戦国謀将奇譚』では、武田信玄、羽柴秀吉、長宗我部元親、島津歳久ら様々な謀将が生き残りをかけて智略を巡らす。謀将たちの仕掛けに舌を巻くどんでん返し7連発。この作品が誕生したきっかけは?
「オール讀物で『戦国の大逆転』という企画があり、『川中島を、もう一度』を書いたのが始まりです。このとき、編集者に『謎』をテーマに書いてください、と提案されました。それで信玄の側近たちが、お屋形様はどんな策を練っているのかを、推論を競わせ探っていく話を書きました。戦場という現場には行かず、策という謎に迫る、いわば安楽椅子探偵ものです。また、元々の企画内容が『戦国の大逆転』といっても、いわゆるジャイアントキリングものではなく、情勢が二転三転と逆転していく面白さを描きました」
登場するのは誰もが知る武将だけではない。例えば第3話「宇都宮の尼将軍」では北関東の名門・宇都宮家の当主夫人で、夫の死により家政を取り仕切ることになった南呂院(なんりょいん)が主人公だ。「宇都宮家」にピンとこない読者が大半だろうが心配はいらない。大国に囲まれた宇都宮家の緊迫感と悲哀、また動揺する家中に辣腕を振るう南呂院の姿が、生き生きと立ち上がってくる。
「私は栃木県出身で、故郷の大名である宇都宮家の話は、ずっと書きたいと思っていました。ですが、題材としてはマニアック過ぎるのか、全く企画が通らない(笑)。短編なら編集者が見逃してくれるかも、と淡い期待で企画を提出したのが『宇都宮の尼将軍』です。小説を楽しんでほしいという希望が一番ですが、手垢がついていないマイナーな人物を、自分なりに掘り下げるのも歴史小説を書く楽しみの1つです」
1冊を通じて戦国の初期から終焉まで、長い時間を旅した感覚に囚われるはずだ。
「人々はどう生きたか、社会はどう変わったかは常に意識していました。例えば戦乱の需要から、大量生産が求められた刀鍛冶に思いをはせ、職人としての志と商売の間で葛藤する『一千石の刀』が生まれました。また、戦場以外での武将の戦いの面白さは『戦国砂糖合戦』で味わっていただけると思います。自分の琴線に触れることを取り上げていたら、結果的に戦国時代を丸々描くことになりました。歴史のエピソードに導かれてできた1冊です」
歴史を見る目の確かさが、往時を鮮やかに浮かび上がらせる。戦国小説に新風を吹き込む快作の誕生である。
みのわりょう 1987年生まれ、栃木県出身。2014年歴史群像大賞入賞作品『うつろ屋軍師』でデビュー。2018年『最低の軍師』で啓文堂書店時代小説文庫大賞を受賞。
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