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聴こえる者、聴こえない者――みんなが一緒になって作り上げた

聴こえる者、聴こえない者――みんなが一緒になって作り上げた

NHKドラマ『デフ・ヴォイス 法廷の手話通訳士』主演・草彅剛インタビュー


ジャンル : #小説

近年、手話やろう者の世界のことが、ドラマや映画のテーマとして取り上げられ、多くの社会的関心を集めているなか、一人の手話通訳士を主人公にした新たなドラマ『デフ・ヴォイス 法廷の手話通訳士』が生まれました。
ろう者の両親の間に生まれた耳が聴こえる子ども、コーダ(Children of Deaf Adults)として生きる主人公・荒井尚人役を演じる草彅剛さんに、お話をうかがいました。


――手話通訳士、という役柄を演じたご感想を教えてください。

草彅 手話をやるのはほぼ初めてでしたから、当然最初は全然わからない。かなり量もあったし、めちゃめちゃ難しくて出来るのかなーと不安にもなりました。部屋を借りて、先生が3人ついて、スパルタで(笑)。朝ドラ『ブギウギ』の撮影と重なっていたので、大阪までの往復の新幹線で、ずっと手話の練習をしていましたね。
先生方に細かく教えてもらったおかげで、なんとかみんなが僕を「荒井尚人」にしてくれたかな。だから、出来上がった映像を見たとき、ちゃんと尚人の手話に見えて、やってよかった!と思いました。大変ではあったけど、本当に楽しい、やりがいのある役でした。
普段は声を使って感情を表すのが俳優の醍醐味、と言えますが、そのまったく逆というか……手話をしながら、イメージを膨らませていって、タイトルにもなっている「デフ・ヴォイス」が自分のなかから溢れていくといいな、そんなふうに考えて演じていました。

――演じるにあたり、渡辺一貴監督からは、なにかアドバイスなど、ありましたか。

草彅 監督はとても熱心で、僕が手話の練習をするときには毎回来てくれたんです。そして監督自身がすごく温かくて、懐が深い人。監督の気持ちを借りて、自分は尚人になっていったと思いますね。
脚本も本当に素晴らしいんです。尚人が小さいときに感じていた、コーダとしての悲しみ、それまで抱えてきたものが、きちんと書かれていたので、細かくこういう役だという話はしませんでしたね。自分でもこうしよう、とかはあまり思わなくて、いい空気に呑まれていった感じです。
役作りというのは特にしませんでしたが、映画『コーダ あいのうた』は観ました。主人公がコーダという、同じ設定だったので。

――ドラマに登場する、20名近い「ろう者・難聴者」のほぼすべての役を、実際にろう・難聴の俳優が演じています。手話ってこんなにも表現が豊かなのか、と驚きました。

草彅 ろう者の方とお芝居をするのが、このドラマでは大きな挑戦、新しい試みでした。現場に入って、ろう者の方の手話や表情を見ていると、吸引力があって引き込まれていくんです。もちろん練習はしましたが、あとは現場で、目の前にいる方の熱量で、僕の練習した手話に気持ちが乗っていった……僕の中からあふれ出てくる表情とかが、あったのかなと思います。
ろう者の人とそうじゃない人、垣根を越えて、身振り手振りでお互いこのシーンを創り上げよう――そういう気持ちがある、本当に温かい現場でした。

写真提供:NHK

――ドラマのなかで、「ろう者は『日本手話』という日本語とは異なる言語を話す」というセリフがあります。草彅さんは、韓国語も学ばれていましたが、自分の母国語とは違う言語でのコミュニケーションの難しさ、伝わったときの喜び、といったものはありましたか。

草彅 僕の場合は日本語もままならないというか(笑)、あまりどの言語もこだわりはないんです。手話は手のサイン、指文字に表情が合わさって……外国語とはまた異なりますよね。
でも、人に分かってほしい、というのは手話もどの言語も同じ。伝えて同じものを共感できるって大事だな~と思いながら、やっていましたね。
やっぱり、手話で通じあえるのは嬉しかったです。新しいことを覚えると、人間って単純に、嬉しい。学ぶことの大切さって、いいですよね。
ろう者の方と関わるのは、楽しかったです。でもそれは特別なことではない、いつもの自分の日常とそれほど変わらない感じでした。
普段は名だたる俳優の方たちとお芝居をしていますが、このドラマで本当のろう者の方、そのなかでも芝居をしたことのない方、そういう人たちとお芝居をするときの空気感は、いつもと違っていて、刺激的でしたね。

コーダとして生まれ育ち、自身の生き方や他者との向き合い方に悩んでいた荒井尚人。やがて唯一の技能を活かして手話通訳士となる。ろう者の法廷通訳を務めたことをきっかけに、尚人は自身が関わっていた、過去のある事件と対峙することになる。現在と過去、二つの事件の謎が複雑に絡みはじめる……。

――最後まで読めない展開につい引き込まれましたが、このドラマの、ストーリーとしての面白さはどういうところにあると思いますか。

 

草彅 最初、手話を扱った作品と聞き、もっとヒューマンで感動的な話なのかな、と思ったら、ミステリーだったので、逆に面白いと思いました。誰が犯人だかわからない、というなかで、ろう者・コーダというのがキーポイントとしてちりばめられている。
ミステリアスで綺麗なシーンも多いですし、あと家族愛というのも、このドラマでは出てきます。尚人がコーダということで、抱えてきているものが大きい、殻を破りたいけれど破れない葛藤がある。そういうときにそばにいてくれる人、大切ですね。人間は一人では生きていけない。
ドラマには、血のつながりがある家族、ない家族が出てきて、だけど心は通い合っている。家族の在り方についても、考えました。

――共演者で刑事・何森(いずもり)稔役を演じる遠藤憲一さんが、「以前から共演したかった草彅剛君と共演できて嬉しい」とコメントを寄せられていましたが、共演してみていかがでしたか。

草彅 遠藤さん、すごくチャーミングで恰好いいですよね。あのはにかんだ笑顔で、「今日は元気?」とか聞いてくれて。スペシャルな時間を過ごせたと思います。荒井と何森が対面する場面は、いい意味で僕も緊張感をもてて、ろう者の方とお芝居をするときとは対極でしたね。その両方があっての『デフ・ヴォイス』だと思うので、今回の共演に感謝してます。
ほかの共演者の方たちも、皆さん役になりきっていて、現場に入ったときから、その役にしか見えませんでしたね。

――一番印象的だったシーンはどこですか。

草彅 たくさんありすぎて、決められないですね。橋本愛さんと一緒のシーンが多かったのですが、彼女の演技が本当に素晴らしくて、見どころの一つだと思います。
ろう者の方と話すとき、結構デフ・ヴォイスが聴こえたんです。そういうとき、ああ、タイトル通りの撮影が行われているんだなって、思う瞬間がありました。
荒井が通訳をする益岡さんというろう者の方が出てきますが、益岡さんはすごくデフ・ヴォイスが聴こえる方。一緒にいると自分の心が高鳴ってきて……益岡さんとのシーンは印象に残っています。
お兄さん役の方も熱量がすごくて、兄弟げんかをするところは、彼の悲しみや切なさ――デフ・ヴォイスが伝わってきて、こっちもどんどん前に気持ちを押し出して、ぐっとアクセルを踏むことができました。
ラストのお母さんとのシーンも、すごく家族愛が伝わってきて、温かい気持ちで、ドラマを観終えることができると思います。もうピーピーカンカンで、ものすごく暑い日の撮影だったんですが、印象に残っていますね。
ぜひドラマを、一人でも多くの人に観てほしいです。

写真提供:NHK

ドラマ『デフ・ヴォイス 法廷の手話通訳士』
〈放送予定〉
2023年12月16日(土) 23日(土) よる10時  NHK総合 BSP4K
出演 草彅剛 橋本愛 松本若菜 遠藤憲一 ほか

文春文庫
デフ・ヴォイス
法廷の手話通訳士
丸山正樹

定価:814円(税込)発売日:2015年08月04日

電子書籍
デフ・ヴォイス
法廷の手話通訳士
丸山正樹

発売日:2015年09月18日

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