Q1 台湾有事について自衛隊OBの本がたくさん出版され、人民解放軍の動きが頻繁にニュースになるなど、緊張感が高まっています。近い将来、本当に中国は台湾や日本に攻め込むのでしょうか? 心配でたまりません。
A 2021年3月、当時の米インド太平洋軍司令官デービッドソン海軍大将がアメリカ上院軍事委員会で「台湾に対する中国の脅威は6年以内に現実のものになる」と証言し、台湾有事論に火が点くことになりました。
しかし、デービッドソン発言を中国の脅威に対する警鐘と受け止めるのはよいとして、それに引きずられ、振り回されている状態からは抜け出す必要があります。このあと詳しく説明しますが、日本としては、整理すべき部分を残した生煮えの台湾有事論に右往左往するのでなく、正しく中国に備えることが求められているのです。
デービッドソン発言をみるまでもなく、日本はアメリカの要人の発言に左右される傾向があります。その一方、デービッドソン発言の3カ月後に、アメリカ軍トップのミリー統合参謀本部議長が「中国が台湾全体を掌握する軍事作戦を遂行するだけの本当の能力を持つまでには、まだ道のりは長い」と指摘し、デービッドソン発言を否定しました。ところが、ミリー発言の根拠を取材したメディアはありませんし、政治家や専門家が集ったシミュレーションでもミリー発言は無視されています。不思議だとは思いませんか。ミリー氏の後任として来日したブラウン統合参謀本部議長も2023年11月10日、「習近平国家主席は必ずしも台湾を武力で奪いたいわけではないと思う」、「大規模な水陸両用作戦は簡単ではない」と明言しているのです。デービッドソン発言は台湾有事を煽るために利用されているのではないかと疑いたくもなります。
弱点を自覚する人民解放軍は侮りがたい
意外かも知れませんが、軍事の専門家同士として本音ベースで議論するとき、中国の軍部は自軍に台湾や日本に対する侵攻能力が備わっていないことを隠していません。そして、その根拠はミリー統合参謀本部議長と同じなのです。とにかく日本の議論やシミュレーションは、「中国の軍事力が『カタログデータ』通りに機能する」という錯覚のもとに行われる傾向がありますが、軍事は「常識の科学」です。根拠に基づかない戦略、作戦は成り立ちません。だからこそ、おのれの非力を自覚している中国は侮りがたいのです。
本書では、日本の常識だけで判断した台湾有事論で慌てふためくのでなく、正しく中国に備えるため、混乱する日本の議論を整理したいと思います。第1章では日本とアメリカで行われた台湾有事シミュレーションの結果を、第2章では防衛白書とアメリカ国防総省の『中華人民共和国が関与する軍事および安全保障の進展に関する報告書』2023年版(以下、アメリカ国防総省の2023年版報告書と記す)に書かれている人民解放軍の外から見た姿を、第3章では人民解放軍の戦争遂行能力を、第4章ではいま日本が備えるべき軍事力を、第5章では隣人・中国と共存していくための戦略を、それぞれ説明していきます。
「はじめに」より
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