この本の単行本版のあとがきを書かせていただいた2018年の秋頃、私は20歳、大学在学中の身でした。母が亡くなった後、依然として地方でひとり暮らしをしながら日々を過ごしていた私にとって、この本を通じて母の思いの一端に触れ、それに対してあとがきを書かせてもらうという、ある種の継承に携わらせてもらえたことは、非常に大きかったように思います。
あれから5年が過ぎました。自分も紆余曲折を経て、学生から社会人へと立場を変えて生活しています。この変化は自分の生活にとって相当に大きいものだと感じている一方で、その根底にあることは変わらない、とも感じています。それこそが「自立して生きる」ということなのではないかと思うのです。母は本書の中で、自立とは、「自分の力で、自分の人生を、よりよく生きていこうとしていること」と述べています。この思想は、今の自分の中に確かに息づいていることのひとつです。大学生になって地方でひとり暮らしを始めたことも、学生から社会人になったこの期間の変化も、私にとって自立への大きな一歩であり、重要な転換期でした。ですが、本書で母が述べている「自立して生きる」ということは、転換期だけに問われるものではなく、むしろ日々、生活の中で問われ続けていることだということが、重要だと思うのです。だからこそ母は「家事をする力」、つまり「日々の生活をよりよく生きていける力」の大切さを信じて、これまで活動してきたのだと思うのです。一日一日の生活の中にこそ、自分の「生きる」ということがあるという、とてもシンプルなことを、母は追求していたのだと改めて感じます。
私事ながら、今年の春、自分の妹が高校を卒業し、新たな生活のステージに進むことになります。母が亡くなってから本当にいろんなことがありましたが、一歩ずつ確かに自立へと歩んでいる妹の姿は、とてもたくましいです。その姿を見て、私自身の生き方も省みさせてもらっています。言い換えると、妹の自立に向かう姿が、一層、私自身の「自立して生きる」ということを促してくれているように感じるのです。
人々が生きる力は、それら同士が密接に繫がっているのだと感じることが増えました。生きる力の繫がりを紡いでいく一人一人が、日々の生活をよりよく生きていけることに、本書が少しでもお役に立てることを、心から祈っています。
「文庫版あとがき」より
あなたがひとりで生きていく時に知っておいてほしいこと
発売日:2024年03月06日
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『赤毛のアン論』松本侑子・著
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