大ベストセラー『「捨てる!」技術』の著者、辰巳渚先生の最新作。先生は原稿をほぼ完成させた昨年6月にバイク事故で急逝、本書が遺作となった。
子や孫にあたる音楽をさんざん聴いた耳でビートルズを聴いても登場時の衝撃を追体験できないのと同様、2000年に発売された『「捨てる!」技術』を今読んでもその凄さはピンと来ないかもしれない。
当時、「捨てる!」という選択肢の存在自体に衝撃を受けた私は捨てて捨てて捨てまくった。しかしまたすぐモノだらけに。なぜ? 「私の場合、使ってるモノを山から救出して置き場を確定するのが先だ!」と気づいて片づけ、『片づけられない女のためのこんどこそ!片づける技術』を発表したのが2007年。
わかっちゃいるけど片づけられないのには理由がある。それぞれに理由を探りつつ先生の背中を追う我々。
2009年発売のやましたひでこ氏『新・片づけ術 断捨離』は「モノを断ちガラクタを捨てれば執着も離れていく」と説き、2011年発売の『人生がときめく片づけの魔法』で「ときめくものだけ残しましょう」と説くこんまり氏は今年、米映像配信大手Netflixの番組で独自の片づけ術を指南し話題を呼んだ。
発売から20年近く、今なお『「捨てる!」技術』の衝撃波は広がり続ける。
『「捨てる!」技術』は130万人を動かした
さて本書は、ひとり暮らしのための本だ。衣食住、お金、ご近所づきあい、安全まで網羅した注意点が事細かに綴られる。あとがきで先生の二十歳のご子息曰く「自分ができていないポイントについて読んでいる時には、チクチクと指摘されているような気持ちになりました(笑)。」全く同感です。チクチク辛い……。
しかし、このチクチクこそが辰巳先生の神髄なのではと今思う。
『「捨てる!」技術』では、まるで読者の家に入り込み隣に立って1カ所1カ所指さすかのようにあれもこれも捨てられますとチクチク指摘し、130万人を動かした。あとがきには「あえて具体的な社会事象や統計資料をとりあげなかったが、筆者なりの裏づけがあって、“捨てるための技術”を提案したつもりだ。」とある。
パルコ出版発行のマーケティング雑誌「月刊アクロス」の記者も経験した辰巳先生。未来を見通し、しかし指示はどこまでも具体的に実践的に。(余談だが私は昔、パルコの子会社「株式会社アクロス」に内定をいただいたが、やはり絵の勉強をしておこうと思い直して内定を辞退した。)
このひとり暮らし本も。指示はひたすら実践的だが最終章に、生活とは「環境の変化を飲み込み、または変化を緩和して毎日をそつなく生きていくもの」とある。私が内定をいただいた会社は2003年に解散。先のことはわからない。
本書は、いつひとり暮らしになるかわからない私たちみんなへの置き土産だ。
たつみなぎさ/1965年、福井県出身。2000年刊『「捨てる!」技術』がミリオンセラーとなる。その後「家事塾」等の活動を通し、暮らしこそが自立の基本と訴え続けた。2018年6月急逝。
いけだきょうこ/1969年、愛媛県出身。漫画家。『片づけられない女のためのこんどこそ!片づける技術』『人生モグラたたき!』他。
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