- 2024.04.15
- 読書オンライン
「友だちって難しい。友情のわからなさを書いていきたい」小説家・高瀬隼子と大前粟生がともに悩む「友情」というテーマ
「別冊文藝春秋」編集部
高瀬隼子×大前粟生 対談 #3
出典 : #文春オンライン
ジャンル :
#エンタメ・ミステリ
〈「探偵の推理ショーって優しいなとずっと思ってて」小説家・高瀬隼子が驚いた大前粟生『チワワ・シンドローム』誕生秘話〉から続く
「はげ」をテーマにした高瀬隼子さんの『め生える』。「弱さ」をテーマにした大前粟生さんの『チワワ・シンドローム』。この2作の共通点は、主人公とその親友の友人関係が描かれていることです。
当たり前のものだった二人の関係性がいびつなものになる瞬間を鋭く描き出すお二人が、いま「友情」について考えることとは。対談の様子をお届します。(全3回中の3回目/司会進行=U-NEXT・寺谷栄人/撮影=松本輝一)
***
友だちって、なんだ?
大前 高瀬さんの『め生える』は真智加と親友のテラの話でもあります。二人の間で、はげている/はげていないの違いでパワーバランスが決まってしまって、そのことをずっと真智加は思い悩んでいますよね。高瀬さんは、登場人物がはっきり自覚しているわけではないけど、ずっと感じているプレッシャーみたいなものを書くのがすごく上手ですよね。自分だったら展開を派手な方、派手な方にもっていってしまう気がするんですけど、高瀬さんはその世界のなかの登場人物たちの、働いて家に帰ってみたいな日常のなかに留まり続けながらずっと面白いというのがすごいなと思っていて。
高瀬 友だちとか友情というのはたぶんまた書くだろうなと思うし、自分のなかで書ききれてないテーマだなと思っています。
そもそも友だちって難しいなと思っていて。すごい好きな友だちが何人かいるんですよ。大事にしたいし、今後も生きている限り会いたいなと思うんですけど、全然会いたくないときもあったり、遊ぶ約束したんだけどすごくめんどくさいと思ったりとか。行くと結局楽しいんですけど、楽しさとは別にすごく疲れて帰ってくることもある。でも会いたくないわけじゃないし、たまにめっちゃ憎くもなるし、その憎さはその子が何かをしたからじゃなくて自分の内側から出てるなと思ったりして。私が抱えている友情というもののわからなさが作品に出てるかもしれないけど、まだ書ききれてないとも思ってるんですよね。
大前さんが『チワワ・シンドローム』で書かれたこの友情は結構特殊ですよね。
大前 友情というか支配という感じですよね。
高瀬 弱くて可愛い琴美を、強いミアが「親友だよ」って支配する。だけどこの二人の友情はこの先、形を変えて続いていくという希望が見える話でもあると思います。で、この二人は特殊で支配しすぎですけど、周りを見渡しても、多少なりともそういう要素がある友人関係もあるのかなとは思う。
高瀬 私はいま35歳なんですけど、ここから新しく友情を築くのって、まず家から出ないから人と出会わないし、出会えたとしても継続した関係を結ぶのも難しくて大変だなと。だからこそいまある友情を大事にしたいと思っていて。でもそれも自分勝手だなという反省もあるんです。私の友だちは家からちゃんと出ているはずなので、新しい友だちとの出会いがあって、新しい友情を今後も築けるかもしれないけど、私だけはそこにしがみつこうとしてる。それはその本人を見ないで、「友だちでいる」という形式にしがみついてるんじゃないかとか、思っちゃって。それって支配ではないけど、純粋な友情でもないんじゃないかとか、最近ずっと考えています。
友だちって、どう作る?
大前 そもそも、友だちってどうやって作ればいいと思いますか? 考えてみたら友だちっていないなと思って。高校の友だちは大学に上がるタイミングでもう連絡を取らなくなったし、大学の友だちは卒業するタイミングで全く連絡を取らなくなったしという感じで。ないものねだりなだけだと思うんですけど、結局友だちづきあいがあったらあったで、僕は絶対めんどくさいなと思っちゃう。でも友だちと遊ぶみたいなことがいまほとんどなくて、老後とかやばいんじゃないかってすごい思ってて(笑)。
高瀬 そんな、まだまだ先ですけど(笑)。と笑いつつ、でもわかる……。
大前 でも大人の、特に男性が、誰かと友だちになるってどうしたらいいんだろうって思うんですよね。職業も小説家っていうちょっと変な職業で、小説書いてますとか言うと「こういうアイデアどうですか」ってノリノリで言われたり、「自分は学生時代作文とか全然ダメでした」と言って接点を作ろうとしてくれたりするんですけど、そういうのに対するうまい返し方がいつもわからなくて、「へえ、そうですか」で終わってしまって心苦しいんです。
高瀬 私は小説家になって友だちが増えたんですよね。10年くらいずっと増えも減りもしなかったんですけど、小説家になってから小説家の友だちが増えました。でも友だちと思ってるのは私だけかもしれない、といま喋ってて不安になったんですけど……向こうからしたらただの同業者なのかもしれないですよね……。頻繁に飲みにいくとかではなくて、LINEで「小説書けた?」「書けてない」「私も」みたいな感じなんで。じゃあ月一でお茶してたら友だちだと思いますか?
大前 それは友だちだと思います。
高瀬 自分から言ってみて、そんな人ひとりもいないなってなっちゃいましたけど(笑)。では、半年に一回お茶してたら友だちですか?
大前 そうですね、それも友だちなんじゃないですかね……たぶん。なんかわかんなくなってきちゃった。
高瀬 友だち同士ってこういう条件を設けないですよね、きっと。友だちの作り方、教えてほしいですよね。
大前 そうですよね。
高瀬 教えてもらったら実践します?
大前 それはちょっとわかんないですね(笑)。
一同 (笑)
大前 僕がお酒を飲めないっていうのも大きいのかなって思ってて、あることないこと適当に言える相手がいたらいいなと思います。
高瀬 お酒が飲めなくてもお酒の場はどうですか?
大前 いや、うるさいなって(笑)。
高瀬 それなら昼間にお茶とか散歩するとかがいいですよね。いっしょに散歩するのはめっちゃ友だちじゃないですか。
——お二人に提案なんですけど、大前さんがいつも歩かれるコースを高瀬さんもいっしょに歩かれたらどうですか。
高瀬 いっしょに⁉ いま一日50歩くらいしか歩いてないんですが(笑)。
大前 歩きましょう歩きましょう。
高瀬 1時間はきついんで15分から始めたい……なんならゴールだけごいっしょして、お茶したいです。
大前 ゴ、ゴールに高瀬さんがいるんですか?(笑)
高瀬 ゴールまで電車で向かってお茶すれば、歩かずに済む(笑)。カフェ集合にしましょう!
大前 それは散歩ではないですね(笑)。でも近くに素晴らしいスーパーがあるので、紹介します。ディズニーランドみたいなスーパーで。
高瀬 えっ、どういうことですか⁉
大前 なんか、あるんで、良かったら(笑)。
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