『犬がいた季節』で本屋大賞第3位となった伊吹有喜さんの3年半ぶりの新作が刊行されました。テーマは「お金と愛」。みんな気になってるけど口に出せないことですよね。いち早く読んだ書店員さんからは、予想をはるかに超える共感の嵐。みなさん、感想がいつもより長く、そして自分のことを語ってくださっています。お寄せいただいた感想の一部をお届けします。これから読んでみようかなと思う方、読んで答え合わせをしたい方、是非ご覧ください。
読み進めるうちに浮かんでくるフレーズは「妻が突然切り出す熟年離婚」でした。真奈と優吾の結婚に至るごたごたよりも、智子と健一の別れに至る感情のすれ違いにより重きが置かれていたように思います。
私としては智子さんの我慢と頑張りがはがゆくて、読んでいてかなりストレスになるほどでした。それでも高梨家は「正統派、にっぽんの幸せなファミリー」には違いなく、2人の着地点も柔らかいところに落ち着いて、読み終えた後の救いになりました。智子が健一にはなった「不機嫌は立派な暴力。静かな暴力」は名言でした。
原田里子さん(マルサン書店サントムーン店)
結婚してお互いを強く意識するのは、新婚と老後です。この2ヶ所を親と子という二世代で描かれているので、自分に当てはめて読んでしまいました。結婚式、イヤだったなぁとか、お互いの貯金額でもめたなぁとか。
ただ、家族みんなが同じ方向を向いているならその価値観の違いは強みに変わります。自分が思いつかなかったアドバイスをもらえたり、相手が弱っている時に自分が稼いで家族を支えたり。お互いの違いがあるからこそ生きていけるので、そこを再確認できる良い本です。
久保田光沙さん(明屋書店空港通店)
結婚めんどくさい! と思ってしまう一冊ですね。でも、ページめくる手が止まらなーい。続きが気になって読むのをやめられない。
暴言暴力のみならず、不機嫌も立派な暴力! 名言だと思う。不機嫌、これみよがしにする溜息、最悪ですよね!! 全ての人間!! これを読め!!
山田純子さん(喜久屋書店イオンモール大和郡山店)
自分自身の過去を思い出し、共感しながら読ませていただきました。
相手の両親と初めて会ったとき、両家の顔合わせのとき、式場選びにドレス選びのとき……あの時々の気持ちが蘇るとともに、私の母も健一や智子さんのような気持ちを抱えてたのかな……なんて、懐かしいような苦しいような、何とも言えない気持ちになりました。
「愛」と「お金」がテーマだとありましたが、まさにこれは一生目を背けることができない問題だと思います。
「愛」にはじまって、確かに「愛」はあったはずなのに、「お金」によってぐちゃぐちゃにされる……経験があるだけに、この作品がより沁みました。
子どもを想う親の気持ち、親を想う子どもの気持ち、相手を想う夫婦の気持ちがありありと描かれていて、優しさともどかしさで胸がいっぱいです。
そして好きな人といると、つい弱腰になってしまう真奈の乙女心にも、わかる~! と共感しまくってました。読みやすくて共感だらけの一冊でした! すごく良かったです。これからもずっと旦那や親と仲良く楽しく生きていきたいなぁと、過去を思い出し、未来に想いを馳せる素敵な作品でした。
渡部知華さん(TSUTAYAサンリブ宗像店)
「結婚」という大きな節目から生まれる家族問題。
それぞれが、悩み葛藤しながらも、懸命に自分の道を模索する姿に、この物語は決して他人事ではないと感じました。ページをめくるたびに日常のリアリティ的空気感に包まれます。
まさに、家族という天秤にかかる、愛とお金の揺れ動きに、心のざわめきが止まりません。
そして、ずっと一緒にいるからこそ、家族でいることの大変さ、息苦しさが肌に伝わってくるようでした。大切に思いあうからこそすれ違ってしまう、心のすきま風。その風を大きくすることも、小さくすることも自分次第。
家族の意味や存在を問われる、忘れていた大切な気持ちを呼び起こされるような家族小説。
読み終えた後、全身に新しい明日へ飛び立つ勇気と力が溢れました。
宗岡敦子さん(紀伊國屋書店福岡本店)
人生100年は個人だけの話ではなく夫婦の時間でもあるのだと。共にある時間をどう生きるか、結婚する子どもだけでなく親にも理想と現実への問いかけが降りかかるのがよくわかる。
相手を気遣う想いに嘘はないけれど、自分を大事にする気持ちもわかってほしい。言葉にすれば同じ気持ちを抱いているのに、行き違ってしまうのがもどかしい。三島が頻繁に出てくるので、三島から見える富士山が思い起こされました。お腹に宝永の噴火でえぐれた跡があり、それが力強く堂々として美しく今に繋がる、この物語そのもののように感じます。
松田寿美さん(本のがんこ堂石山駅前店)
育った環境は、金銭感覚や価値観に影響を与えますよね。当たり前がこんなにも違うものなのかと、お付き合いをしている時から感じたことを思い出してしまいます。好きという感情だけでは、乗り切れないお金の問題。結婚は2人がスタートさせるものなのに、どうしてこんなに複雑になるのかとモヤモヤ。私も笑って誤魔化してきたこと、無理して合わせていたことがあった。
両親はまだ若い50代とはいえ、社会的地位、親の介護、身体の不調とままならぬことで、つい溜息をついてしまう日常に強い既視感があり、かなり心を揺さぶられてしまった。
うまくバランスを保つことばかり気にかけて、蔑ろにしてきた想いの数々に胸がぎゅっとなる。
わかる、でも心が痛い。あの時、こうしていればと、人生には後悔はつきものだけど、私はまだ諦めない、諦めたくはないのだと気づきました。高梨家の人々の選んだ先に、自分の選んだ道を重ねてしまうのでした。
石坂華月さん(未来屋書店大日店)
人生には様々な分岐点があり、結婚もその一つ。結婚するにあたり、お互いの家の金銭感覚を含め、価値観の相違が大きな問題としてのしかかってくるのだと、つくづく思い知らされました。お金を通じて人としての価値観が問われているようにも感じました。物語の中で直面する問題が現実的で、登場人物たちが悩み、考え、決断していく様が自分のことのように感じられ、身につまされる思いがしました。
家族や夫婦のあり方……今後の人生を生きていく上で、自分にとって大切なものは何かを深く考えさせられました。
自分が選択していく道が正しいかどうかは分からないけれど、後悔のないように生きていきたいとあらためて思いました。人生観を問いかける奥行き深い家族小説。あらゆる年代の方の心に沁み入る物語です。
池尻真由美さん(紀伊國屋書店久留米店)
現実味があり過ぎて、うなずくことばかりで少し焦りました。結婚には誰もが理想と夢を持って臨むけど、結婚を決めて一番先に感じることは、2人だけの問題じゃなくなること。これは誰しもがぶち当たるもの。人と人を繋ぐのではなく、家族を繋ぐものになってしまうし、家庭の色々な違いを必ず感じてしまう。
独身の時とは違う感情も芽生えるし、素の人となりが見えてくる。憧れを抱いたものがドロドロしたものになったときに本当の自分が見えてくる。本心を伝えられるか、伝えられないか、伝えても納得できるかできないかでまた別の道が見えてくることが限りなく現実で、自分にも起こり得ることとして受け止めた。ドキドキしますね~。
清宮久雄さん(ブックスページワンIY赤羽店)
「ねえ、機嫌悪いの?」と聞かれることが増えた。健一のことではなく、私のことです。家族構成も一緒だし、智子は妻に見えてくるし、とても他人事とは思えない物語に「はっ」としました。健一も相当ですが、私も妻に甘えすぎてるなぁと猛省。読み終えてたまたま横にいた妻に「僕は離婚も別居も卒婚も嫌です」と唐突に伝えて「は?」と言われました。
タイトルから親世代にウケそうですが、私自身は真奈たちが結婚準備で右往左往するパートに食い気味に共感してたので(自分らも似たような言い争いしてたりして……)、恋愛真っ最中の若い世代にもおすすめしたい作品ですね。
枡田愛さん(水嶋書房くずは駅店)
結婚は自分だけのものではないことを改めて突き付けられる現実的な内容でした。
新聞小説だったことを鑑みると、同じ状況におかれた方々がお読みになっていたならばさぞ心強かったのではと感じました。
実際の娘の立場からすると母親である智子の抱く夫への気持ちや態度の理由がよくわかります。
物語の中に書かれている父親である健一の行動力や思考はまだ稀な存在だと思いますが、それでも理解に苦しむ部分は多々ありました。
この物語に出てくる母親、そして女性たちの強さは、真奈目線になると腹が立つ部分もありましたがそこも含めスカッと気持ちよくて良かったです。
小松稚奈さん(うつのみや金沢百番街店)
これから家庭を築こうとする若い2人のすれ違い、円満だったはずなのに幸せが壊れ始めるのを止められない親夫婦。価値観の違いと言葉にできないジレンマが追い打ちをかけ、ずっともやもやが消えない。若い2人が真の幸せとは何かに気がついた時、鼻の奥がツーンとなって安堵した。
同世代、考えさせられることが沢山ありながらも新しい道しるべは自分で切り拓いていかないとと、少しだけ勇気を貰えた気がした。
望月美保子さん(あおい書店富士店)
高梨家の構成はほぼ我が家と同じで(トモツンが私です)身につまされることこの上なく、私だったらどうするだろう、そんなことを考えながらこの家族がどうなるのか一気に読んでしまいました。
真奈ちゃんのお相手はともかく一生のおつきあいを考えると私なら反対しちゃうかも……でも雨降って地固まるの2人のラストには、拍手で応援したくなりました。
大瀧裕子さん(須原屋コルソ店)
嫁ぐ予定も嫁がせる予定もない、よって結婚式回りの出来事にかけらも興味が持てない自分が、こんなにも作中の出来事に一喜一憂することになるなんて読み始めたときには想像もしませんでした! 結婚という幸せの象徴のようなイベントに、希望や喜びだけでなく、それぞれの登場人物が過去から抱えてきた鬱屈、人間同士の相性のままならなさがあらわになっていくのを固唾をのんで見守りました。
「強くならなければ。でも、どこをどう鍛えれば、心は強くなれるのだろう?」今年一番骨身にこたえたフレーズです。
原口結希子さん(本のがんこ堂野洲店)
高梨家の人々の視点で物語が進むからか、はたまた高梨家の経済状況がどちらかといえば自分に近いからか、真奈の意見にばかり自分も偏ってしまいがちでしたが、優吾側の意見も聞いてみると彼の言うこともわかるなとなり、頭が沸騰しそうでした。折衷案て難しい。
楠木亜梨沙さん(TSUTAYA西宝店)
娘を持つ母として、タイトルを見て、泣いた。これは反則です(笑)。しかし読み始めると、思っていた展開では、ない!? 高梨家の一人娘、真奈が婚約者を連れて来るところから流れ始める家族の時間。それぞれがそれぞれの思いを抱え、考え悩み何かを掴もうとする。娘の結婚話から、自分達夫婦の絆、在り方を模索する智子の心情に共感してしまった。
かたや、新しい出逢いに心惹かれる夫である健一。それは長年連れ添って相手の新しい部分の発見など中々見られない妻より、新たに登場した人の方が輝いて見えるよね~、と(笑)。これから一緒になろうとする2人の、育った環境、経済格差。そしてそこに加わってくる親の思考。難しい問題を乗り越え、幸せを掴もうとする2人に幸あれ! そして素晴らしい決断をした智子の未来にも幸あることを。家族の形が変わる時、また新たなことの始まりなのだと。この本、同じく娘を持つ友人にプレゼントします!
山本智子さん(文真堂書店ビバモール本庄店)
人はずっとそのままではいられない。成長して恋をして結ばれても、やがて年老いて相手への感じ方も違っていく。
仲のいい温かい家族が、娘の結婚を契機にその形を崩していく様は少し悲劇的に見えるのですが、お互いが新しい生き方を求めて変化していくのは自然なことで、それは決して悲しいことではないのかなと、読んでいるうちに思いました。最終章近くの健一と智子の会話にはちょっと胸が詰まりましたが……。登場人物、全員に幸あれと願った作品でした。
吉田知広さん(ブックスオオトリ四つ木店)
しっかり者ながら、どこか甘ったれたところの残る真奈と、両親を苦手にしながらも完全に親離れできていない優吾、一人娘、一人息子だとこんなものかと思いつつも、結婚というものはいつの時代にしても「家」と「家」の結びつきから逃れられないものなのかと考えてしまいました。
育ちの違いから生じる価値観のズレは愛情と思いやりだけで簡単に超えられるものではないとしみじみ思いました。同名の智子、これからの人生自由に生きろ!
松村智子さん(ジュンク堂書店旭川店)
読んでいて、自分が結婚してから今まで、大変だったり辛かったりしたトラウマが思い出されてしまい、苦しくなりました。私たち夫婦は仲良くやっていると思いますが、それは夫が日ごろから感謝を伝えてくれるからだと思います。健一さんのように、ため息ばかり吐かれたらきついです。棘のある言い方で返すのも、智子さんとの会話が減ってしまってどんどん険悪に……。真奈さんと優吾くん夫婦、これから大変だと思いますが幸せになってほしいです。会話は大事!!
松嶋真知子さん(未来屋書店小山店)
テンポが良く、続きが気になりすぐ読み終えました。興味深い内容で面白かったです。
それぞれが迎えた朝に考えさせられました。家と家のつながりが出来る時、一筋縄でいかないものですよね。本作にもあるように身内同士でも違和感が生まれたり。式の準備のことを思い出して懐かしく複雑な気持ちになりました。
そして真奈の場合は結婚相手の両親がインフルエンサーという設定が面白かったです。ありえないようで、このご時世ならありえなくも無い。もし私だったらどうするだろうと考えながら読みました。
石田祥さん(草叢BOOKS新守山店)
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『烏の緑羽』阿部智里・著
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