- 2024.06.06
- 文春オンライン
「14歳で売春島に売られ…」裏社会で仕事をする女性コンサルタントを苦しませる、“封印したはず”の過去の記憶
「週刊文春」編集部
著者は語る 『魔女の後悔』(大沢在昌 著)
出典 : #文春オンライン
ジャンル :
#エンタメ・ミステリ
会(お)うてほしい子がおんねん。13歳の女の子や――。
東京麻布台の事務所で、水原は恩ある尼僧から依頼の電話を受ける。本田由乃(ゆの)という少女を、父の墓参りのために京都鞍馬の自分の寺まで連れて来て欲しいと。
――けど、さらいたい、いう人間はおるかもしれん。
水原は、元警察官で私立探偵の相棒・星川と、由乃を連れ西上の途に就くが、新幹線に乗るや、正体不明の敵に襲撃される。車に乗り換えるも、見張りを警戒して容易には進めない。息もつかせぬ展開が続くなか、水原は名古屋で見ず知らずのヤクザに殺されかける。「昔の名前は冬子でまちがいないな」……14歳で売られ、決死の脱出をはかった売春島の記憶が過(よぎ)る。
裏社会で仕事をする闇のコンサルタント・水原の戦いを描く〈魔女〉シリーズ。前作『魔女の封印』から9年ぶり、第4作となるのが最新刊『魔女の後悔』だ。
「久しぶりの続編。ここから読む人は、水原という女に驚くんじゃないかな」と大沢在昌さんは笑う。
「銃は撃つし、必要とあれば人を殺すことにも躊躇なし。僕の小説の中でも、ここまでイリーガルな人間はいない。自分の意思としてやるべきこととやってはいけないことがあって、それを必ず守る。法や正義ではなく信念を拠り所に立つ人間です。その爽快感が好かれているのかもしれないね」
辛くも難を逃れ、京都に由乃を送り届けるも、由乃は伯父の楠田との帰路、何者かに拉致されてしまう。実は、由乃の父は、韓国政財界を揺るがす巨額詐欺事件の主犯で、詐取された2兆ウォン(2000億円超)は行方知れず。末期がんの母雪乃に代わり、由乃こそ“遺産”を相続する立場にあるというのだ。だが、水原は気づく。医師だという楠田、どこかで会ったような。封印したはずの記憶、忘れたはずの宿痾がよみがえる。
「水原は前作で人に非ざる強大な敵を相手に戦った。死ぬことすら怖くない彼女にとって、本当に恐ろしいものがあるとすれば、自分の因果が自分ではない誰かに降りかかってしまうこと。彼女は失うものを持つことに恐怖することになります」
それは過去からの復讐。自分が由乃を危険な目に遭わせているのではと苦悩する。「水原の感情のうねりをここまで描いたのは初めて。愁嘆場の連続だった」。水原の救いとなるのは、星川との丁々発止の掛け合いだ。
「2人なら、男がいかにダサく、情けないか、延々悪口が書ける。そして飯は豪華に。水原のように刹那的に生きる女はファーストフードなんてあり得ない、徹底して美味いものを食べる。彼女ならきっとそうする」
ヤクザ、韓国国家情報院、国家安全保障局が入り乱れての熾烈な戦いへ。それぞれの利害とルールとメンツをかけた命がけの攻防は、圧巻のリアリティがある。
「常に意識しているのは、悪者は四六時中悪者だと一色に塗らないことです。ヤクザも殺し屋も詐欺師もあらゆる犯罪者が出てきますが、仕事として人を傷つける一方で、家族と過ごしたり、甘いものを食べる時間も必ずある。アウトローだろうが、堅気だろうが、生活者としての側面を描こうと。そのあたりが、“プロ”の警察官とヤクザに支持されている所以(ゆえん)かな(笑)」
水原、星川、由乃、さらには敵役もすべて女性。「女の女による戦い」を描いた。
「国家安全保障局の湯浅や、水原を慕うタカシなど、水原の窮地を救う男たちはあくまで脇役。水原は彼らに都合のよい女ではないし、むしろ男を手玉に取る。女の執念深さや復讐に立ち向かう水原を、楽しく、憧れをもって書きました」
おおさわありまさ/1956年名古屋市生まれ。79年『感傷の街角』で小説推理新人賞を受賞しデビュー。91年『新宿鮫』で吉川英治文学新人賞と日本推理作家協会賞、94年『新宿鮫 無間人形』で直木賞、2004年『パンドラ・アイランド』で柴田錬三郎賞、14年『海と月の迷路』で吉川英治文学賞を受賞。22年に紫綬褒章を受章した。
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