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「トランプが大統領であれば、ウクライナ戦争はなかった」と語る専門家の“勘違い”

「トランプが大統領であれば、ウクライナ戦争はなかった」と語る専門家の“勘違い”

イアン・ブレマー

大野 和基

『アメリカの罠』より #2

出典 : #文春オンライン
ジャンル : #政治・経済・ビジネス

「さもなければ、ひどい目にあわせる」日本車への関税はさらに引き上げの可能性も…トランプ当選後の「日本に訪れる災厄」とは〉から続く

「トランプが大統領であれば、そもそもロシアはウクライナに軍事侵攻していなかった」…そう考える専門家の勘違いとは…? 新刊『アメリカの罠』(文春新書、大野和基編著)より、国際政治学者であるイアン・ブレマー氏の論考を一部抜粋してお届けする。(全2回の2回目/前編を読む)

トランプ氏が大統領でもウクライナ戦争は有り得た理由とは? ©getty

◆◆◆

トランプ再選でもウクライナ支援は続く

 トランプは、自分が大統領になれば24時間以内にウクライナ戦争を終わらせると豪語しています。さらに、戦争を止める方法を自分が知っており、バイデンが戦争を制御不能にさせたと主張しています。

 戦争を止めるためには、アメリカの軍事支援と経済制裁をテコに、ウクライナのゼレンスキー大統領とロシアのプーチン大統領に対して戦闘の一時停止を受け入れさせ、交渉のテーブルにつかせる必要があります。これはロシアにとっては、はるかに受け入れやすいことです。

 一方のウクライナは、武器や資金援助をNATOやEU(欧州連合)諸国に大きく依存しており、こうした援助がすべてストップすれば、たちまち手に負えない状況に陥ると思われています。しかし、おそらく事態はその方向には向かわないでしょう。

 NATO、EU、そしてG7は、11月のアメリカ大統領選でどちらが勝っても、ウクライナに資金が提供されるよう取り組んできました。これにはEUの金融・軍事支援資金や、凍結された(現在は事実上差し押さえられた)ロシア資産の利子を利用してウクライナに最大500億ドルを送るというG7の計画も含まれます。ウクライナが欧米から受ける援助が徐々に減っていくことは変わらないでしょうが、今年取られた措置が、突然トランプによって打ち切られることはあり得ません。

緊張関係が生じたのはトランプ政権下

 トランプが大統領であれば、そもそもロシアはウクライナに軍事侵攻していなかったという専門家は多いです。

プーチン氏と握手するトランプ氏 ©getty

 しかし、トランプが、ロシアとウクライナの間、あるいはウクライナ侵攻に向けたロシアとNATOの間で拡大する問題を封じ込めるために、アメリカの力を行使できただろうとは到底言えません。

 このような緊張関係の多くは、すでにトランプが大統領であった間に生じていたからです。アメリカは、ウクライナや欧州におけるロシアの行動に対して幅広い制裁を加え、トランプは大統領在任中に対戦車兵器をウクライナに送っています。前任のバラク・オバマ大統領ならそういう兵器をウクライナには送らなかったでしょう。

 確かにトランプの方がバイデンより予測不可能であり、それゆえにプーチンの突然の侵攻を抑制できたかもしれません。その一方で、トランプが大統領としてウクライナに対して否定的な態度をとっていたら、アメリカの軍事援助や資金が減り、ウクライナにとって戦争がより不利な結果となり、NATO加盟国などアメリカの同盟国との緊張が高まったことは確かでしょう。

ガザでの戦争に弱腰なバイデン

 私が代表を務めるユーラシア・グループは、「2024年世界の10大リスク」の二番目に「瀬戸際に立つ中東」を挙げました。どの国も拡大を望んではいませんが、戦争がパレスチナ・ガザ地区以外の地域や国にも拡大する可能性はあります。

 トランプがガザ地区での戦争にどう臨むかは、大統領選挙までに戦争がどの段階まで進んでいるか、またはアメリカ国内のムードや国際的な感情にも左右されるでしょう。イスラエルの国内政治の状況も影響すると思われます。

 ただ、トランプは中東での情勢安定化に一役買うかもしれません。一期目の2020年には「アブラハム合意」でアラブ首長国連邦(UAE)やバーレーンなど周辺のアラブ諸国がイスラエルとの国交を正常化しました。

 彼には打算的な性格とアラブ諸国のリーダーと培った強い関係があります。

 トランプは第一次政権や公的な発言をみると、イスラエル政府寄りのスタンスですが、戦争が続く中でイスラエルが国際世論の支持を失うことへの懸念も表明しています。さらに、湾岸諸国との連携が予想されることから、イスラエルに対するアメリカの軍事的支援は強力なままでしょう。しかし、トランプのアプローチはバイデン政権より突破口を開き、新しい譲歩を引き出せる可能性が高いと言えます。

 今の状況ではネタニヤフ首相が、11月のアメリカの大統領選より前に打倒される可能性は半分以下です。パレスチナ人の飢饉、イスラエルによるガザ支援者への攻撃、そしてアメリカ議会のボイコットという見通しを前に、バイデンは戦争に弱腰に見えます。

 イスラエルとハマスの停戦協議は概して決裂しています。

 バイデンはもう少しで和平協定が成立するという楽観論でしたが、おそらく実現しないだろうという認識に変わりました。戦争が始まって9カ月経ったいま、バイデン政権は、人質の中に残っている5人のアメリカ市民の自由を確保するために、ハマス自身と話し合う可能性があると持ちかけています。

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