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「さもなければ、ひどい目にあわせる」日本車への関税はさらに引き上げの可能性も…トランプ当選後の「日本に訪れる災厄」とは

「さもなければ、ひどい目にあわせる」日本車への関税はさらに引き上げの可能性も…トランプ当選後の「日本に訪れる災厄」とは

イアン・ブレマー

大野 和基

『アメリカの罠』より #1

出典 : #文春オンライン
ジャンル : #政治・経済・ビジネス

 世界の命運を握る、米国選挙まで残り3ヶ月…。もし共和党のドナルド・トランプ前大統領が当選を果たした場合、日本や世界にどんな影響を与えるのか? 新刊『アメリカの罠』(文春新書、大野和基編著)より、国際政治学者であるイアン・ブレマー氏の論考を一部抜粋してお届けする。(全2回の1回目/後編を読む)

トランプ当選後の未来とは? ©getty

◆◆◆

日本にもっと圧力をかける

 トランプの確信的信念のひとつは、同盟国がアメリカの防衛費に便乗して、自国の防衛費を十分に支払っていないというものです。

 日本は2027年までにGDP(国内総生産)の2パーセントを防衛費に費やす予定であるにもかかわらず、トランプは日本にもっと支出するよう圧力をかけるでしょう。

 また、自分の欲しいものを手に入れるために、関税を貿易相手国に対して脅しとして使いたがるのが、トランプです。彼の「さもなければ、ひどい目にあわせる」という言い方には、日本が輸出する自動車へ高い関税をかけるという脅しが含まれます。あるいは、日本に駐留する米軍のためにもっと金を拠出させようとして、関税の引き上げを脅しとして使うかもしれません。

 日本はこうしたシナリオに備えるべきです。

アメリカはNATOから離脱するか

 防衛費という点では、トランプはNATO(北大西洋条約機構)にも同じように増額を要求するでしょう。

 トランプはNATOの存在を否定しているわけではありません。

 NATO加盟国の防衛費の拠出が目標額に満たなければ「防衛しない。むしろロシアに好きなようにするよう伝えるだろう」と発言していますが、それは目標額を満たせばいいということです。

 これはトランプの一期目もそうでした。大統領在任中に、NATOの加盟国の多くがアメリカに防衛を依存していると不満を示していたのです。トランプは二期目に入ったら、加盟国はアメリカを利用しているという見解を押し通し、欧州諸国がウクライナを支援するためにもっと努力するよう要求するでしょう。アメリカはNATOへのコミットメントから完全に手を引くことはなく、加盟国との関係をよりディール(取引)的な方法にすると思われます。

 また、すでに欧州諸国が防衛費の支出を増やしていることを、自分の手柄にするでしょう。そういうことが欧州の各国政府を戦々恐々とさせているのです。というのも、アメリカが欧州において安全保障の中心的存在ではなくなり、明確なリーダーもいない状況を考慮せざるを得なくなっている状況だからです。

アメリカがNATOを離脱させる可能性も ©getty

 トランプはアメリカをNATOから離脱させるかもしれないという専門家もいます。

 たとえアメリカが離脱したとしても、グローバルな危機を引き起こすことはないでしょうが、ヨーロッパにとって大きな問題となることは明らかです。

 欧州諸国が安全保障上の重要な問題、とりわけロシアからの脅威にどう対抗するかという問題に関して異なる見解を持つようになり、統合どころか分断化を招く可能性があります。

 ヨーロッパ以外のアメリカの同盟国にとっては、アメリカの安全保障の重点がそれぞれの地域に移ることを意味し、有益でさえあるかもしれません。

 しかし、NATOから突然離脱した場合は、アメリカの他の同盟へのコミットメントの神聖さに重大な疑念を抱かせることは必至です。

「トランプが大統領であれば、ウクライナ戦争はなかった」と語る専門家の“勘違い”〉へ続く

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