2024年、没後10年になる俳優・高倉健さん。代表作のひとつである映画『鉄道員』のロケ中に北海道南富良野町で出会った「いもだんご」は、帰京後の自宅でもパートナー小田貴月さんにその味をリスエストするほどお気に入りでした。
名優の晩年を17年間支えた小田さんのフォトエッセイ『高倉健の愛した食卓』より、「いもだんご&ぽっぽやだんご」を紹介します。
北海道富良野で撮影された映画『鉄道員』
「もー、寒かった。久しぶりの北海道だったろ。装備はばっちりだったけど、出てるところがね(と鼻や耳をひっぱるように触りながら)。
でも、今回は、地元のおばちゃんたちが、毎日熱々の炊き出しで世話してくれてね。いもだんごっていうんだったかな? これが美味かったんだよ。
他にも、料理がたくさん並べられてたけど、僕はいも専門。甘くもなく、しょっぱくもなく……。とにかくじゃがいもなんだよ!(親指と中指で輪をつくり)このくらいの大きさで、厚みはこのくらい(食パンの八つ切りの厚さ)。作れるでしょう?」
と、『鉄道員』(1999年)の北海道(南富良野町幾寅)ロケから帰宅した高倉の第一声でした。
このとき私は、男爵いもを生のまますりおろして、適度に片栗粉を加えて、一口、二口で食べられるほどの平たい丸形に整えて、オリーブオイルでほどよいきつね色に焼き付けました。甘醤油のとろみ餡をかけて完成。
「ちょっと味は違うような気がするけど、これも美味いよ」と合格点を貰もらい、我が家の定番小鉢メニューに加えました。
『鉄道員』は、私が高倉と出逢ってから、初めて撮影された映画でした。同行することのないロケ地の風景に、少しだけ溶けこめた思いがしたものでした。
「健さんにお出しするときは、無塩バターで焼いたんですよ」
高倉が亡くなってほどなく、改めてご縁を繋いでくださったのが、幾寅婦人会元会長の佐藤圭子さん。
高倉がいもだんごを好きだったことをお伝えし、地元の味を直接教えていただきました。「その家ごとに、作り方は少しずつ変わると思いますけれど」とのことでしたが、ここで使われていたのはメークインでした。
通称メーク。皮を剥いたメークを、4~8等分に切り分けて、少し塩を加えた水から茹でます。茹であげてから潰して、じゃがいもの3分の1ほどを目安に片栗粉を加えて、ぐいぐいと力強く捏ねていきます。
全体にまとまり感が出て、滑らかなつや感がでてきたら、直径5~6cm程度のロール状にまとめて、1.5cmほどの厚みに切り分け、バターでこんがり焼き付けておられました。焼く前のロール状にしたものは、ラップをして冷凍保存ができるとのこと。
「健さんにお出しするときは、無塩バターで焼いたんですよ」と、佐藤さん。
毎年、高倉の命日には、駅舎を訪ねてくださるファンの皆様に、幾寅婦人会の有志の方々が、いもだんごと珈琲を振る舞ってくださっています。
2024年3月31日、『鉄道員』のモデル駅が廃駅に
映画公開から25年目。
2024年3月31日、映画では幌舞駅となっていた幾寅駅が廃駅になりました。
まるで『鉄道員』の物語をなぞるかのような現実です。
映画では、高倉扮する駅長の佐藤乙松に一本の電話が入ります。廃線の期日が予定より早まることを知らせるものでした。乙松が、思い出を次々フラッシュバックさせていると、降り積もる雪にすっぽりと覆われた幌舞駅に、高校の制服姿の少女が訪ねてきます。
鉄道クラブに入っているというその少女は、乙松が蒐集していた鉄道グッズを嬉々として手にしていましたが、ふと遠くを見つめ、幌舞線がなくなるさみしさを乙松に問うのです。
「後悔はしてねえよ。(深い吐息)どうすることもできないだけだ」と、呟いた駅長高倉の声がふと蘇りました。
高倉健から引き継いだ思い出の味
廃駅の報道に触れた私は、この機会に改めて佐藤圭子さんに感謝をお伝えしたいと、教えていただいたいもだんごの進化形を考えました。
題して“ぽっぽやだんご”。
中くらいのじゃがいも1個が1人分。皮を良く洗い、まるのまま水から茹でます(時短が必要なときは、皮を剥いて4等分ほどに切って電子レンジで)。茹で上がったら、熱いうちに皮を剥いて、ボールの中でマッシャーで潰し滑らかにします。
ティースプーン1杯程度の片栗粉を振り入れ、手で全体を混ぜ合わせて一口サイズ、6~7個ほどに丸めていきます。片栗粉を薄く纏わせて、有塩バターで熱々に。まん丸のいもだんごに、丁寧に焼き色をつけていくひとときが、ほっこりとしたご馳走。
そのままでも、甘醤油のとろみ餡をかけても。
2024年初夏、幾寅で、婦人会の皆様に召し上がっていただいたとき、「あっ、じゃがいもの甘みが残ってる」と喜んでいただけました。
いもだんご、そして、ぽっぽやだんごは、高倉から引き継いだ私の北海道の思い出メニューです。
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