2018.06.15 書評

どれほどの痛みに貫かれていても、どこかあたたかい昭和の風景

文: 森 絵都 (作家)

『降霊会の夜』(浅田次郎 著)

『降霊会の夜』(浅田次郎 著)

 歴史小説。人情小説。悪漢小説。ミステリー小説。ユーモア小説――ジャンルの枠を越えて数々の名作を世へ送りだしている浅田次郎さんの筆は、時として、生死の枠も越える。やむにやまれぬ事情を抱えた生者と死者が作中で呼び合い、交わり合う。『鉄道員(ぽっぽや)』『地下鉄(メトロ)に乗って』『椿山課長の七日間』『神坐す山の物語』『おもかげ』等、不思議な魂の交流がリアルに描かれた作品群を見ても、それら小説世界における下界と冥界の垣根は低く設えられているように思える。が、私はいつもそこに「されど垣根」とでもいうべき厳格な境界を感じてもいた。

 そこだけは踏み越えられない一線のようなもの。犯してはならない法のようなもの。生者としての、また死者としての嗜みのようなもの。

 つまるところ、生きているあいだに取り返しのつかなかった何かを垣根を越えて取り返すことを、浅田さんは容易に許さないのだ。

 だからこそ、ご都合主義のハッピーエンドからは得られない余韻が読後の胸に長く留まる。

 本書『降霊会の夜』も然り。まずタイトルからも察せられるように、この小説もやはり「あの世」と「この世」のあわいにたゆたう魂たちの織りなす物語だ。しかし、「自分はそっち系はちょっと……」という方も安心してほしい。本書の主人公である〈私〉もまた、神懸かりや霊的なものは一切信じない男性なのである。



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降霊会の夜浅田次郎

定価:本体700円+税発売日:2018年06月08日