- 2025.01.24
- CREA
自分を愛するのって人生で一番大事だけど、それが一番むずくね? 歌人・上坂あゆ美&ラッパー・valknee対談
文=ライフスタイル出版部
撮影=平松市聖
上坂あゆ美&valknee対談【前篇】
初のエッセイ集『地球と書いて〈ほし〉って読むな』を刊行した歌人・エッセイストの上坂あゆ美さんと、「ラップスタア誕生2023」への出演やアイドルへの楽曲提供などで注目を集めるラッパーのvalknee(バルニー)さん。
最近知り合ったばかりというのが信じられないほど同じバイブスで生きている二人による、“マジの言葉”だけが高速で飛び交ったパワフルな対談をお届けします。
出会いは新大久保のカンジャンケジャン屋
上坂 歌人とラッパーって、本来はあんまり関わりがないはずなんですよ。うちらが最初に会ったのって、2、3ヵ前?
valknee 超最近。新大久保のカンジャンケジャン屋。
上坂 広告代理店時代の同僚のアートディレクターの男の子が、「上坂さんに紹介したい人がいます」って言って、うちらを会わせる場を設けてくれて。
valknee その人は私の美大時代の同級生で、私の親友の親友。私、知らない人には結構壁作るタイプなんだけど、「親友の親友ならいいか」ってことで会うことになったんだよね。
上坂 そう。紹介された時点で言うとだいぶ遠いよね(笑)。
valknee 上坂さんのことは「上坂あゆ美のオールナイトニッポン0」とかで名前を見たことはあったけど、あんまり知らなかったから、インタビューを読んで予習した。そうしたら、結構共通項が多そうというか、「わかりあえるだろうな」みたいな感じがした。まあ、2、3カ月の仲ですけどね(笑)。
上坂 私はバルニーちゃんと会う前から、勝手に信頼してて。それはもちろん作品がめっちゃいいと思ってたのもあるし……私、“接触イベ(ント)”が多い作家で、バーで働いたりもしてるんだけど、そこに「私、上坂あゆ美とバルニーを世界で一番推してます」っていうお客さんが数人いたの。
結局普段プライベートで仲いいかどうかより、作品を見て信じてくれた人って信用できるなと思うんだよね。バルニーちゃんと私の作品を見て、その二人を好きって言う人がいるんだったら、バルニーちゃんとは絶対仲良くなれるって思った。
valknee ジャンルは違えどね。嬉しい。
「自分最高!」って本気で思ってる?
上坂 バルニーちゃんは(ラップのリリックの中で)結構「自分最高!」みたいなセルフラブ的なメッセージが多いじゃんか。あれってどんくらい本気で思ってる?
valknee うーん。基本的には結構ガチで思ってる。私は自分の内面はすごい好きなんだけど、見た目がすごく好きじゃないのね。「超嫌い」までではないけど、世間からの評価とか、世間で美しいとされている基準と合ってない部分が自分で意識できるから、社会を通して見るとすごく嫌。とはいえ、自分ひとりになったら、かなり自分を愛している方かなと思ってる。
上坂 じゃあそこはマジなんだ。私は、短歌もそうなんだけど、半ば「自分最高!」って自分に言い聞かせてる感覚がある。短歌にしちゃったら死なないで済むと思って。自分はうっかり死んじゃいそうだなって思うことがすごくあるし、年々多少マシにはなってるけど、やっぱ自己否定癖すごいし。バルニーちゃんほどマジで自分を愛せてはない気がする。
valknee なるほどね。そこまではわかんなかったな。図太い人なのかなって思ってた(笑)。
上坂 そうだよね(笑)。『老モテ(上坂の第一歌集『老人ホームで死ぬほどモテたい』)』を出した時は、インタビューでもわざと強そうな発言をしてたと思うんだけど。最近は世の中で「セルフラブ」って言われすぎじゃない? 自分を愛するのって人生で一番大事だけど、それが一番むずくね? って思う。それを安易に言ってくる社会に対して怒りが湧いてくる。
valknee うん、わかる。もし「セルフラブ系アーティスト10選」とか入れられたら、めっちゃ嫌だ。
上坂 何? 「セルフラブ系」って(笑)。でも私、別にセルフラブに限らず、くくられたくないのね。「女性歌人」も「アラサー物書き」って言われるのも超嫌だし、もう全部のくくりが嫌いだから、なんだって嫌なんだけど。
うちらは“シンメ”の関係
上坂 あのね、バルニーちゃんには言ったけど、私は逆バルニーであり、バルニーちゃんは逆上坂だと思ってて。つまり、うちらは“シンメ(トリー)”の関係にいる。ラップや短歌にたどり着くまでの軌跡とかを考えた時に、私はもしかしたらラップをやってた世界線だったかもしれないし、バルニーちゃんは短歌をやってた世界線があったかもって思うことが、喋ってるとすごく多くて。
あと、話してて思うけど、バルニーちゃんはラッパーだし、自我も強いし、意志も強いし、めっちゃ尖った人に見えるかもしれないけど、私の印象としては超真人間。第一印象は「まとも」。
valknee (笑)。そう言われることはすごく多いね。
上坂 人と喧嘩することもあるとか言ってたけど、正直あんまりイメージつかないぐらい、すっごい常識がある。
ものづくりの過程で血は流れるか?
valknee 何かを一緒にやろうとすると燃える、ってことなのかな。結局、自分を通したいから、そのためにいろいろぐちゃぐちゃ言って、無理やり自分を通して……とかやっちゃう方。
上坂 そうだよ。意外とさ、全然感情派じゃなくて、理論派だよね。
valknee 多分、上坂さんとだったら、そのぐちゃぐちゃ言う過程を一緒にできるから成り立つと思う。
上坂 私も超理屈こねるから、マジでディベート大会みたいになるよ。
valknee でも納得させられたら全然折れる。私を納得させられる人しか周りにいてほしくないというか。
上坂 ものづくりに関するところでそれが発動するのは、ある程度しょうがないよね。じゃあ一緒にもし何かこの先作品をつくるとしたら、血が流れることは覚悟して(笑)。でも、血が流れてもいいものができたらいいのかな。
valknee いいよ! でもあんま上坂さんと喧嘩するのは想像つかない。リスペクトできるから。
上坂 でも私、バルニーちゃんだけが血みどろになって、自分が無傷で、バルニーちゃんが私のことを嫌いになってる未来が見える。それが怖い。
valknee シザーハンズだから(笑)。
上坂 できれば血を流さないで、いつか一緒にいいものつくれたらいいな。
上坂あゆ美(うえさか・あゆみ)
1991年、静岡県生まれ。2022年に第一歌集『老人ホームで死ぬほどモテたい』(書肆侃侃房)でデビュー。Podcast番組『私より先に丁寧に暮らすな』パーソナリティ。短歌のみならずエッセイ、ラジオ、演劇など幅広く活動。
valknee(バルニー)
ラッパー、アーティスト。東京を拠点に活動中。Zoomgalsとしての活動やAbema TVから配信された「ラップスタア誕生2023」への出演、和田彩花、REIRIE、lyrical schoolらアイドルへの楽曲提供など活動の幅を広げる。2024年4月に1stアルバム「Ordinary」をリリース。
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