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時代劇が世界で評価されたのは、特別なことではない

時代劇が世界で評価されたのは、特別なことではない

「文春文庫」編集部

出典 : #文春オンライン
ジャンル : #小説

 大人気時代劇シリーズの最新第8作「三屋清左衛門残日録 春を待つこころ」が、3月8日(土)に時代劇専門チャンネルにて放送される。原作は藤沢周平の『三屋清左衛門残日録』(文春文庫刊)と「三月の鮠」(文春文庫『玄鳥』所収)。

 巡りゆく季節のなかで、変わらない人の想いを描いてきた同シリーズ。主人公・三屋清左衛門を演じる北大路欣也さん、作品に新たな風を吹き込む若き剣士・窪井信次郎を演じる藤岡真威人さんに、お話を伺いました。

――北大路さん、今回「三屋清左衛門残日録」シリーズ8作目になりますが、いまのお気持ちを聞かせてください。

北大路 この作品は、藤沢周平先生の世界・心というものが、背景にあります。清左衛門は素直に、人間が互いにいいところを見つけ出して、共に奏でる人生を描き求めている――人の痛みが分かるんです。僕にとっても、心が洗われる作品です。

 昔の物語ではなく、いまを体現させていただいている。ストーリーは現代とどこも変わらない。人間の社会は、そんなに変われるものじゃないですから。

――藤岡さんにとっては、初めての「三屋清左衛門残日録」の現場でした。いかがでしたか。

藤岡 毎日が勉強、でもすごく温かい現場で、楽しい撮影でした。最初はとても緊張していましたが、山下(智彦)監督からも、「信次郎と同年代だから、等身大の若いエネルギーで演じてくれればいいよ」と言葉をいただき、安心しました。

 役作りでは一から所作を教わりました。帯刀していることを意識して、立ったり座ったり。父(藤岡弘、)からのアドバイスもありましたね。

 スタッフの皆さんが、本当に時代劇が好きな、プロの方たちばかり。台本を大切にしながらも、監督も交えて、ここはこうしたほうがいい、とよりよいシーンにするために、皆が話し合っている。いい作品は、こういう現場からできるんだなと、心の底から納得しました。

「三屋清左衛門残日録 春を待つこころ」©日本映画放送/J:COM/BSフジ 藤沢周平®

〈あらすじ〉
御前試合でライバルに敗れ、自暴自棄になった若き剣士・窪井信次郎を、清左衛門は野歩きに誘う。途中、小さな社で祈りを捧げる巫女・照日(大友花恋)に、信次郎は心を奪われる。次第に打ち解けていく信次郎と照日だったが、ある日、社が何者かに襲われ、照日は姿を消してしまう。彼女を探し、奔走する信次郎に心を動かされ、清左衛門は事件の謎を解き明かそうとするが――。

清左衛門と若者の絆

――北大路さんと藤岡さんは、初めての共演になりますが、最初の印象はいかがでしたか。

北大路 真威人くん、こんなおじさんを受け入れてくれるかな、と最初は緊張しました(笑)。

 殺陣の練習をしているところを見ましたが、実に清々しかった。自分が二十歳のころと比べても、立ち回りが上手で、勘がいい。自分が若いころのことも、思い出しました。

 彼のお父さんとは、昔共演をしているので、撮影現場を見にいらしたときは、本当に懐かしくて、涙が出るくらい嬉しかった。親子が似ているか、と聞かれれば、息子さんのほうが、スマートですね(笑)。

藤岡 北大路さんの凄いと思うところは、画面に映ったときのオーラ、存在感です。目がすごくお綺麗だなと思っていましたが、初めて直接お会いしたとき、より強く感じました。何も語らずとも、芝居をしているなかで感じる緊張感――自分も俳優として年を重ねる中で、いつかそういうものを出せる俳優になりたい。そう強く感じました。

――本作では、清左衛門が血気盛んな若い武士を、時に戒め、時に共に戦いながら、固い絆で結ばれていく、というこれまでになかった展開です。

北大路 信次郎のことを、道場での仲間の一人、光り輝いている若者として見ていたら、実はものすごい壁にぶちあたり、複雑な世界を背負いながら、自分自身と戦っている、ということを、清左衛門は知るんです。

 そこはダメ、というところは止められるけれど、ほかにどう言えばいいのか、という悩みがあった。だから、信次郎の成長を見たときの喜びは大きい。清左衛門のほうが、引っ張られている気がしましたね。異世代の人と向き合うことで、柔軟になりました。

藤岡 脚本が素晴らしくて、一人一人が魅力的。僕は、すごく信次郎に共感できました。成人はしているけれど、若さゆえの自信が滲みでてしまっている。挫折を経験し、自分自身に足りなかったことに気づく――それが分かるセリフがあるのですが、大事にしました。

 ぜひ皆さんに、信次郎の成長を見届けてほしいですね。

「三屋清左衛門残日録 春を待つこころ」©日本映画放送/J:COM/BSフジ 藤沢周平®

時代劇の未来に向かって

――改めて、時代劇の魅力・面白さとは、何でしょうか。

北大路 細やかな息遣い、思いやりが、時代劇のなかには詰まっている。日本人の魂に触れるものですよね。

 偉大な先人が作った時代劇が、たくさんあります。僕も舞台や映画館でチャンバラを見て育った。いまは演じる側だけれど、見るのも大好き。

 ちょんまげだから古いという感覚が、どこ‟かに残っているんじゃないかと思いますが、ストーリーは現代劇と変わりません。‟いま‟を見てほしいですね。

藤岡 時代劇に触れることが、だんだん減っているなかで、20代の自分ができることは何か。そういう使命のようなものを感じています。

 もともと現代劇でもSFや、CGを使った非日常を扱う作品が好き。時代劇もそう。和装で、古い街並みや家屋のセットを歩く。普段目にすることのないわくわくする世界。日本にしかないジャンルですよね。

 言葉で語るより、実際に見てもらい、「もっとこの時代劇の世界を開拓していきたい」と思ってもらえたら、大成功だと思います。

――真田広之さんが主演・プロデュースした配信ドラマ「SHOGUN 将軍」が、第76回エミー賞で史上最多の18部門、第82回ゴールデングローブ賞〈テレビドラマ部門〉で4部門を受賞する快挙がありました。

北大路 真田さんは昔から知っていますが、海を渡って、我々の想像を絶する苦労があったと思う。それを乗り越え、あれだけの努力をされて、「SHOGUN 将軍」にたどり着いた――真田さんの人間力を感じます。日本人として誇らしいですね。

 時代劇が海外に広まり、世界で評価されたのは特別なことではないと思います。人の感情は、魅力があって美しいものに惹かれる。壁はないんです。

藤岡 日本の武士の「侍魂」の極致を理解してもらうのに、多くの先輩俳優の方々が苦労され、体現してきた歴史の上に、今回の成功がある、と感慨深いものがありました。真田さんをはじめ、関わった全ての方に対し、尊敬と感謝の気持ちでいっぱいです。

 自分はまだまだ未熟ですが、後に続く僕たちに、大きな希望と勇気を与えていただいたと思います。

清左衛門と熊さんも成長?

――「三屋清左衛門残日録」シリーズではお馴染みの、伊東四朗さん・麻生祐未さん・優香さんたちが、今回も脇を固めます。清左衛門との息の合ったやりとりも含めて、多くの人が待ち望んだ最新作。最後に、北大路さんから、一言お願いいたします。

北大路 物語の終わりの方で、熊太(伊東四朗)に「若い人の役に立って、調子に乗っているんだろう」と言われて、清左衛門が「とんでもない、むしろ自分が宝を貰っている」と返す場面があります。そして「共に老いゆく友もおる。年を取るのも悪くない」と続ける……。

 若い世代と向き合うのはとても大事、一方で、刺激し合い支え合う熊さんのような存在がある。この第8作で、清左衛門も熊さんも、ずいぶん成長したんじゃないのかな。

「三屋清左衛門残日録 春を待つこころ」©日本映画放送/J:COM/BSフジ 藤沢周平®

●番組情報

「三屋清左衛門残日録 春を待つこころ」
3月8日(土)よる7時ほか 時代劇専門チャンネルにて

「三屋清左衛門残日録 春を待つこころ」の原作は藤沢周平『三屋清左衛門残日録』(文春文庫刊)、「三月の鮠」(文春文庫『玄鳥』所収)。

文春文庫
三屋清左衛門残日録
藤沢周平

定価:891円(税込)発売日:1992年09月10日

文春文庫
玄鳥
藤沢周平

定価:748円(税込)発売日:1994年03月10日

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