東北の小藩で用人を務めた三屋清左衛門。家督をゆずり隠居の身となり、悠々自適の日々を送るはずが、様々な事件が持ち込まれ……。藤沢周平による、累計発行部数100万部超の傑作長篇『三屋清左衛門残日録』を原作としたオリジナル時代劇、シリーズ第7作「三屋清左衛門残日録 ふたたび咲く花」が完成しました。2016年の第1作より三屋清左衛門役を演じる北大路欣也さんに、東映京都撮影所でお話をうかがいました。
――改めてこの撮影所に帰ってこられたご感想を、お聞かせください。
13歳のとき、『父子鷹(おやこだか)』でこの撮影所でデビューさせていただいて、それから途切れることがなく、今年で69年目になります。ものすごい想い出が、いっぱいあるんです。
撮影所の門に入るときは一瞬緊張して、心を整えて入ってくる。そして「今」という時間を感じながら、仕事をさせていただいている。
素晴らしい先人の方たちの背中を見ながら、いろいろな熱をもらって吸収しながら、1歩1歩ここまでやってきて、今日まで来ました。
――清左衛門役を演じられるのも、7作目です。令和に入ってからの、北大路さんの代表作になりました。
清左衛門は素直に憧れることができる人です。自分もこういう老後でありたい、こういう態度で人に接したい――ただ優しいのでも、厳しいのでもない、懐の深い人。そういう人になってみたい、という思いが湧いてきて、この役をお引き受けしました。
「善悪」というと簡単になってしまいますが、善には善、悪には悪のそれぞれの思いがあり、それを一歩引いたところから見て、すっと受け止めてから行動に出る。よく話が聞けてよく見て、自分の体感で物事を捉えることができる――それが清左衛門。
演じるときは、いつも自然体でありたい、朝起きてから夜寝るまで、そういう雰囲気でいられるといいな、と思っています。あまり意識しすぎると、自然体でなくなっちゃうんだけどね。
〈第7作のあらすじ〉
ある日、道場の少年たちの喧嘩の仲裁に入った清左衛門は、事の起こりとなった少年・俊吾の父親が、柘植孫四郎だと知る。孫四郎は8年前、剣の腕を見込まれて要人の護衛を引き受けたものの、任務に失敗。家禄を減らされ、更に妻・瑞江を不貞の疑いで離縁するなど、心に大きな傷を抱えていた。
道場に来なくなった俊吾を気にかける清左衛門だが、孫四郎には口出し無用と言われてしまう。そんなさなか、8年前の事件に、とある陰謀がかかわっていたことが分かり――。
――改めて、どんな作品に仕上がりましたか。
この物語は、非常に“現代”だと思います。今置かれている世界の情勢、というのが作品のなかにある。例えば、普段ニュースを見ていると、感動したり怒りを感じることがあるでしょう。ドラマのなかでそういったストーリーに遭遇したとき、あれ、こういう話は世界でもあったな、あのとき自分はどう感じたのか……そういう思いが、ドラマのなかでも生きてくる。刀を差したり、ちょんまげ姿だというのを、つい忘れてしまうくらい、今そこで起きている現実だと錯覚してしまう。昔の話ではないんです。すごく今を生きている、いや、今を超えているかもしれない。
――本作は長篇小説『三屋清左衛門残日録』とは別の藤沢周平の短篇「山姥橋夜五ツ」を取り入れて、ひとつの物語ができています。
どの原作とどの原作を合わせるか、という話しあいがされていると聞いていたので、それがどうでき上がってくるか、本当に待ち遠しい。第一稿を読ませていただいたとき、私はとても新鮮に思いました。家族愛もあるし、夫婦愛、友情……いろいろな愛があって、ちりばめられているんだけれども、社会をひっぱる大きな流れがあって、それは1人の人間ではどうすることもできない。でも、どの世界・どの時代でも、それに立ち向かっていく。今持っている思いは素直に投影できた、と思っています。
この作品のなかで「1つの幸せ」を見ることができた、嬉しいしありがたい気持ちですね。
時代劇は原点でありふるさと、夢でもある。非常に大きな世界なんですよね。シリーズが7作まで続いたのは、時代劇を愛してくれる方々が、支えてくれたからこそ。作品を通してメッセージを送ることができたら、役者冥利につきますね。
――共演された方たちとのエピソードがあれば、教えてください。
皆さん、もう長い付き合いですよね。町奉行・佐伯熊太役の伊東四朗さん、小料理屋「涌井」の女将である麻生祐未さん……。それぞれの温もりをたくさんもらって癒されて、共に力を合わせていい作品にしよう、という気持ちで集まっている。本当に嬉しいし、幸せですよね。意識はしていないけれど、お互いのそういう心が、生きていると思います。
「涌井」といえば、撮影のときに小道具で出される料理、台本では大抵、伊東さんが先に食べ始めるんですが、自分も「早く食いてぇな」と思いながら見てますよ。いつも本当に美味しくってね。
――前作の第6作『三屋清左衛門残日録 あの日の声』は、ドイツ・ワールドメディアフェスティバル2023 エンターテインメント部門金賞を受賞しました。
まず時代劇専門チャンネルが、そういう賞があることを調べて、この作品を出品した、ということがすごい。私は賞のことは全く知らなかったので、報告を受けたときは、「えー何それ!?」とそれは驚きました。
世界に「愛の壁」なんてない、社会のシステムも変わらないんだな――藤沢先生の原作の世界が海を越えて、多くの人が共鳴してくださった。そういう喜びを感じています。
〈放送情報〉
「三屋清左衛門残日録 ふたたび咲く花」
3月9日(土)よる7時 時代劇専門チャンネルにて
『三屋清左衛門残日録 ふたたび咲く花』の原作は藤沢周平『三屋清左衛門残日録』(文春文庫)、「山姥橋夜五ツ」(文春文庫『麦屋町昼下がり』所収)。
三屋清左衛門残日録
発売日:2007年09月20日
麦屋町昼下がり
発売日:2006年02月20日