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【試し読み】本屋大賞受賞! 瀬尾まいこ『そして、バトンは渡された』第2回

文: 瀬尾 まいこ

2019年本屋大賞受賞『そして、バトンは渡された』(瀬尾まいこ 著)の冒頭を公開します。
第1回よりつづく


『そして、バトンは渡された』(瀬尾まいこ 著)

「森宮さん、次に結婚するとしたら、意地悪な人としてくれないかな」

 長ねぎにしいたけに小松菜に豆腐。なんでも入れたカレイの煮つけを口に入れながら、私は言った。

「どうして?」

 いつでもお腹がすいている森宮さんは、仕事から帰ってくるなりスーツのままで夕飯を食べる。堅苦しいしスーツが汚れるから着替えればいいのにと言う私を無視して、今日もご飯をかきこんでいる。

「いつもいい人に囲まれてるっていうのも、たいへんなんだよね。次の母親はちょっとぐらい悪い人のほうが何かと便利かなって」

 新しくやってきた母親に嫌がらせを受けているなんて相談したら、先生たちは目を輝かせて聞いてくれそうだ。

「いい人に囲まれてるって、相当いいことじゃないか」

「そうなんだけど、保護者が次々変わってるのに、苦労の一つもしょいこんでないっていうのもどうかなって。ほら、若いころの苦労は買ってでもしろって言うし」

「優子ちゃん、殊勝なんだね。でも、十七年も生きてるんだから、苦労の二、三個は手持ちにあるだろう?」

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そして、バトンは渡された瀬尾まいこ

定価:本体1,600円+税発売日:2018年02月22日


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