ノワールでなくとも「馳 星周の小説」
──『不夜城』でのデビュー以来、ノワールの書き手としてのイメージが強く、今回書かれた少年と犬の話というのは意外な感じもします。
馳 30歳くらいでデビューして、若い頃は自分はノワールしか書かないんだと思っていました。ただ40代半ばを過ぎた頃から、そういうこだわりはなくなってきて、自分が書きたいときに、書きたいものを書くという風に変化していきました。直木賞に関しては、純粋に「ありがとう」という心境ですが、ノワールであろうがなかろうが、「馳星周の小説」であることには変わりはないんだと思います。
──浦河ではどのような方々と選考を待たれたのでしょうか。
馳 生まれ故郷とは言っても、40年以上はここを離れていて、3年前にテレビの取材で浦河を訪れた時に、初めて「こんなにいい所だったんだ」と気がつきました。そこで去年から2、3か月夏の間だけ浦河に住むことになったんですが、そこでお世話になった町長や町役場の方々……そこにはかつての同級生がいたり、親同士が長年交流があった方もいましたし、あとはサラブレッドの生産の方々など、皆で待とうということになりました。こういう言い方も何ですけど、直木賞の結果をリアルに待つという機会は、浦河にとって一生に一度しかないことだと思うので、直木賞がこういうものだよ、と浦河の方々に味わってもらえたらということでした。皆さん、G1レースで勝った時のように喜んでくれています。
犬は神様が遣わした贈り物
──選考会では「犬を出すのはずるい」という選考委員もいらっしゃったようですが?
馳 犬に限らず動物を出すのはずるいです(笑)。ただ犬ともう25年間暮らしているので、自分が書きたいように書かざるを得ないんです。本の中にも「(犬という動物は)人という愚かな種のために、神が遣わした贈り物」だと書きましたけれど、動物がいなかったら、人間というのはもっと傲慢なものになっていたと思います。そしてとにかくこの話を書きたかった、というわけで許してください(笑)。
──選評で宮部みゆきさんは、この物語が西部劇風である、というようなこともおっしゃっていました。
馳 馳星周という作家としての本質は、どんな作品でも変わらないんです。最初の1作、2作は完全なノワール風味の作品でしたが、日本の地方都市を舞台にして、都会の暗黒街が出てこない作品でも持ち味は出せる。ただ、人間だけだとどんどん悲惨になっていくんだけれど、そこに動物が関わってくることで救いが入ってくるということは、この作品を書いている時にも思っていました。
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