担当編集者より

高校時代、最も仲の良かった友人はいつも学年1位でした。
私はといえば、勉強がそこそこ得意な自負があったものの彼女には到底及ばない。
ある日一緒に廊下を歩いていると、遠くで担任の先生が手招きしている。近づく私に「あ、あなたは大丈夫だから」と言いながら向けられた手の平が、今も妙に目に焼き付いています。10分ほどで戻ってきた友人は、「受けてみろってさ」となんてことない顔で日本一の大学の名を告げたのでした。
『天才望遠鏡』で描かれるのは、天才とその”観測者”たち。「氷上の妖精」の傍らには、同じスケート教室に通うも早々に自分の凡庸さに気づいた幼馴染が、性格に難ありの超売れっ子作家の隣には、「いい人」で名が通るも、爆発的に売れることも大失敗することもない中堅作家がいます。
原稿を拝読して真っ先に浮かんだのは、友人の隣にいる16歳の自分でした。でも、劣等感で胸が張り裂けそうだった私は今、夢だった編集者になり、毎日大好きな本に囲まれて暮らしています。当時の自分も、もしかすると誰かに”観測”してもらえていたのかもしれない。あれから10年と少し経ち、この作品に一番最初に救われたのは私かもしれません。