宇宙へと飛んだ夢は、人々の願いを巻き込み、より広く、深く――。

 ロケット開発に挑んだ『下町ロケット』に続いて、2015年に医療分野での挑戦を描いた『下町ロケット ガウディ計画』、2018年には農業の技術革新に進出する『下町ロケット ゴースト』『下町ロケット ヤタガラス』が同時刊行され、町工場の年代記は国民的物語に成長した。

 この『下町ロケット』シリーズ 全4作を、9月から3か月ごとに新装刊行。また、同じく再リリースされるKindle版には、全4作を一挙収録した合本も登場する。

 熱い物語を再読する人に。そして、あらたに出会う人に。紙の書籍と電子書籍、それぞれのメリット、選び方について、作者に訊いた。

『合本 下町ロケット』(電子書籍)
『下町ロケット』(文春文庫)
『下町ロケット』(電子書籍)
医療も農業も、偶然の出会いがきっかけに

――シリーズ2作目の『下町ロケット ガウディ計画』(2015年刊) で、佃製作所は医療分野で技術提供を行うことに。宇宙から医療への、大胆な舞台転換になりました。

池井戸 『下町ロケット』の後に『陸王』(2016年刊)を書いていたとき、ランニングシューズのメッシュ素材の取材で福井経編興業株式会社の髙木義秀専務(現・社長)を紹介してもらったんです。

 そのときに髙木さんの会社が心臓手術の際に使う心臓修復パッチ(継ぎ布)の開発に挑戦しているという話を聞き、パッチの共同開発者である大阪医科大学(現・大阪医科薬科大学)の根本慎太郎先生にもお会いすることになったんです。根本先生から人工心臓の仕組みについて教えていただいたことが『ガウディ計画』につながりました。

――続く『下町ロケット ゴースト』『下町ロケット ヤタガラス』(ともに2018年刊)では、佃航平たちは無人運転の農業ロボット開発に着手します。

池井戸 農業については最初からテーマとして扱おうと思っていて、話を聞きに行ったヤンマーホールディングス株式会社で、佃製作所の接点としてトランスミッションを提案されました。が、エンジンメーカーである佃製作所にはそれを作る技術がない。そこで、若手研究者が立ち上げたベンチャー企業「ギアゴースト」を登場させたんです。無人農業ロボットについては、別の取材でお目にかかった北海道大学大学院農学研究院の野口伸先生の研究を知り、大いに触発されました。

――さまざまな発見が、シリーズに結実したんですね。

池井戸 あらゆる出会いをネタにしています(笑)。作品が広く読まれれば読まれるほど、協力してくださる方が増えていく。それは、作者としてとてもありがたいことです。

書きながら定まっていったキャラクター像

――また、『下町ロケット』シリーズはメディアミックスでも多くのファンを獲得しました。2011年には第1作『下町ロケット』がWOWOWの連続ドラマWで映像化され、2015年と2018年にはTBS日曜劇場で全4作の物語がドラマ化。TBS版は主要キャストも継続で出演し、キャラクターが定着しました。

池井戸 小説を書くとき、登場人物のキャリアなどはおおまかに設定しますが、とくに姿形については最初に造形する必要がないんですよね。主人公の佃航平についても、どんな人物かは書きながら徐々に具体化していったというのが実感です。でも、TBSのドラマが放送され、『ゴースト』を書いているあたりからは、佃は僕の脳内でも完全に阿部寛さんの姿で動いていました。大福を頬張りながら、「よーし、やるぞ!」と(笑)。

――『ゴースト』『ヤタガラス』が刊行されてから7年。佃製作所は、今ならどんな危機と向き合っていると想像されますか?

池井戸 今なら、EVでしょうね。電気自動車などが普及しEV化が進んでいく中で、小型エンジンを作っている佃製作所のような会社がどう生き残るか。ただ、トランスミッション開発に携わった佃なら、宇宙や医療、農業ではない、何か別の分野で力を発揮することも可能ではないかと思います。

 次のステージとして、僕には漠然と「海」が浮かんでいますが……『下町ロケット』シリーズを含めて小説のアイデアは、常に機械式駐車場のように頭の中をぐるぐる廻っているので、いつ何が出てきて動き出すかは自分でも予想できません(笑)。

池井戸潤さん©文藝春秋
シリーズを読破するなら、Kindleは最強!

――『下町ロケット』シリーズ新装版は、電子書籍版も同時再リリース。単行本に加えて、全4作を収録した合本も新登場します。

池井戸 僕はAmazonのKindleの電子書籍リーダーをずっと使っていて(Kindle Paperwhiteのデバイスを手に)『下町ロケット』でも4冊ぶんをこの薄さと軽さで持ち歩けるのは、確かにメリットですね。僕もトートバッグにそのままポンと入れて持ち運んでいます。移動中に読んだり、寝転がって読んだりするときも軽くていい。光の反射を抑えたE-inkディスプレイなので画面が見やすくて目に優しいし、バッテリーの保ちがいいのもありがたいです。

――紙の書籍と電子書籍、池井戸さんはどう使い分けておられますか?

池井戸 たとえば、実用書や法令集などの実務書は、ノウハウを持ち歩けるという点で電子書籍版に利がありますよね。あと、コミックのように何巻も続刊があるものは、全巻一気に買ってデバイスに入れておけば、いつでも読めます。

 Kindle電子書籍リーダーの辞書機能も便利。僕の小説にはルビが多く振ってありますが、これは、小学生の読者にも読んでもらいたいから。Kindle電子書籍リーダーの辞書機能や単語帳登録を使えば、もっと読みやすくなるでしょう。

 一方で、「これは紙の本でほしい」という本も、やっぱりある。電子書籍で読んだものを、わざわざ紙で買い直したこともあります。本は装幀や紙の手触りなどの身体性も大事な要素だと思っているので、本を出版するときにはその辺りにもこだわっています。

――ちなみに、最近、Kindleコンテンツで購入したタイトルは?

池井戸 『新版 平家物語 全訳注 全四冊合本版』(杉本圭二郎校註/講談社学術文庫Kindle版)。実は全部をきちんと読んでいなかったので、いつか読み直したいと思っていたんです。紙の本を持ち運ぶのは大変ですが、Kindle電子書籍リーダーなら手軽。現代語訳も注釈もすぐに参照できて、便利ですよ。


新装版「下町ロケット」(電子書籍版)がKindle電子書籍リーダー所有者限定で半額還元

https://www.amazon.co.jp/b/?node=211759636051