3年前、19歳という史上最年少でオール讀物新人賞を受賞した米原信さん。今年1月には、受賞作の短編「盟信が大切」を含む6編を収めた連作短編集『かぶきもん』を上梓し晴れてデビュー。現役大学生作家として歩み始めました。
そんなデビュー作がこのたび、第14回日本歴史時代作家協会賞新人賞を受賞。先日行われた授賞式には、サプライズゲストとして歌舞伎役者の中村橋之助丈が登場し、米原さんへ花束とお祝いのスピーチを贈られました。
9歳の頃から歌舞伎を愛し、今や毎月歌舞伎座に足を運ぶ米原さんにとって、橋之助丈はまさに「雲の上の存在」。動揺と緊張、興奮を隠しきれない米原さんに橋之助丈が贈った言葉とは? お祝いスピーチの全文を公開します。
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受賞者のみなさま、誠におめでとうございます。こうした晴れやかな場にプレゼンターとしてお呼びいただいたこと、非常に光栄でございます。
僕は小説に関しては本当に素人であり、“一読者”でございますが、歌舞伎役者としては、一応4歳から舞台を踏んでいます。歌舞伎の家に生まれたから役者でいるというよりも、自分自身も歌舞伎が大好きで役者をやっており、“歌舞伎ファン”の一人でもございます。そんな僕が『かぶきもん』を読ませていただき、感じたことをお話ししたいと思います。
僕たち歌舞伎役者が悩んでいるのは、「歌舞伎は古典芸能であり、“勉強しに行く”ものなのではないか」と思われることがすごく多いということなんです。けれども、実際はそうではなく、歌舞伎もやはりエンターテインメントの一つなんだと思います。ですから、一回でいいから歌舞伎座にお越しいただき、劇場の空気の中で、生で芝居を見てもらいたいと常々感じています。
『かぶきもん』では、歌舞伎のエンターテインメントとしての色を強くお書きになってるようにお見受けしました。作中の役者たち――僕からすると大先輩方ですが――も歌舞伎を愛し、誇りを持って楽屋でああだこうだ言いながらひとつの舞台を作り上げていたんだ。そんな光景を鮮明に思い浮かべることができました。

僕たちもまさに今お稽古中ですけども、そんな姿は変わっていなくて、この時代に合った歌舞伎、お客様方が求めている歌舞伎を日々探しながら、自分たちの芸の引き出しを作る稽古を重ねております。
そうでございますので、僕は橋之助として、僕より若い方がこのような視点でお書きになられた作品が栄えある賞を受けられることは嬉しいですし、また、一人の“歌舞伎ファン”としても、米原さんが本当に歌舞伎をお好きで、ちゃんとご覧になっているんだな、同じ歌舞伎ファンだなということを100%確信できましたので、非常に嬉しく読ませていただきました。
僕としても、今の『国宝』ブームに乗るだけでなくて、今後歌舞伎がさらに発展していけるように、僕たち若い世代が先頭に立ち、この時代に立ち止まらず、しっかりと“息をした”歌舞伎を作ることのできる一人になりたいと思っています。『かぶきもん』を機に、歌舞伎座に足を運んでくださる方が増えると思いますので、私からも米原さんにお礼を申し上げたいと思います。本当にありがとうございます。
また、私事で恐縮ではございますが、来年のお正月にさせていただく公演「新春浅草歌舞伎」は私が座頭で一番年上、つまり全員20代の公演でございます。まさに『かぶきもん』の中で描かれていた團十郎のおじさま、菊五郎のおじさまのように、若い人たちが同じ方向を向きながらもバチバチとやり合いながら作り、より良いものにしてお客様に届けていくという公演でございますので、そのような機会が増えるように、自分たちも一生懸命に勉強して参りたいと思います。
本日は、みなさま誠におめでとうございます。

中村橋之助 Nakamura Hashinosuke
平成7年(1995)12月26日生まれ。本名中村国生。屋号成駒屋。八代目中村芝翫の長男。
祖父は七代目中村芝翫。平成12年(2000)九月歌舞伎座『京鹿子娘道成寺』所化、『菊晴勢若駒』春駒の童で初代中村国生を名乗り初舞台。近年は、平成27年(2015)三月国立劇場『梅雨小袖昔八丈』下剃勝奴、四・五月平成中村座『極付幡随長兵衛』極楽十三、『勧進帳』亀井六郎、八月歌舞伎座『逆櫓』日吉丸又六などを演じる。(成駒屋公式Webサイトより)








