累計150万部の人気シリーズ「准教授・高槻彰良の推察」の澤村御影さんの新作『お祓いは家政夫の仕事ですか 霞書房の幽霊事件帖』が刊行されました。

 元書店員、現在は出版プロデューサーとして活躍される増山明子さんによる、読了後ほかほかの熱い感想を届けします!

人気作家・澤村御影の新作が登場!

 なんか凄い……面白かった……。暫し読後感に浸りながら呟いた。

 澤村御影さんの新作『お祓いは家政夫の仕事ですか 霞書房の幽霊事件帖』を読んで、ようやく放つことのできた一言である。

『お祓いは家政夫の仕事ですか 霞書房の幽霊事件帖』澤村御影(文春文庫)

 私は3年前まで書店員をしていた。特にホラー小説とキャラクター小説を売るのが得意だった。店が閉店するまで、〈角川文庫キャラクター小説大賞〉と〈横溝正史ミステリ&ホラー大賞〉の「読者賞」の審査員をさせていただいたこともあり、澤村さんのデビュー作『憧れの作家は人間じゃありませんでした』(第2回角川文庫キャラクター小説大賞《大賞》受賞)も大好きな作品だ。そして「准教授・高槻彰良の推察」シリーズはドラマ化もされ、澤村さんの代表作といえるヒットシリーズとなった。

 そんな人気作家の新作書き下ろしが発売されると聞けば、否が応でも期待が高まるというものだ。しかし、澤村さんのファンだったらおススメされずとも読むのは当たり前かもしれない……、ということで今回は澤村御影さんを読んだことがない方へ向けて、この作品の面白さを伝えようと思う。

家政夫と貸本屋のバディ

 大学生の犬丸秋生(いぬまる・あきお)は背が高くてガタイも良く、料理も上手い快活な青年だ。彼は、横浜駅近くの雑居ビルにある家事代行サービス『槙田まごころサポート』でバイトをしている。ある日、社長の美波(宝塚の男役さんみたいと家政婦のおばちゃんたちには言われている)の同級生・羽佐間紫織(はざま・しおり)から甥の家の家事代行を頼まれ、これが秋生の人生を変えることになる。

 彼女の甥は鹿住透(かずみ・とおる)、24歳。華奢で美しい見た目をしている。彼の美貌がいかほどかについては本作を読んでニコニコしていただきたい。私は澤村さんの描く人物描写が好きである。そして素晴らしい表紙のイラスト(描かれたのは春野薫久さんだ)を見返していただきたい。話を進める。

 透を担当しているベテラン家政婦が引退するため、後任に指名されたのが秋生だった。透が暮らしているのは洋館風の大きな家。雰囲気にそぐわない古めかしい引き戸が付いていて、その上に掲げられた看板には消えかかった文字で『霞書房』と書かれている。私は心で「ワッ!」と叫んだ。「書房」と書いてあるだけで、それがどんな本屋だろうかとワクワクするのだ(霞書房は貸本屋で、透が店主をしている)。

 前任者が引き継ぎノートを用意するくらい、透は取り扱いが難しい客なのだが、とあることがきっけかで秋生は彼に受け入れてもらえるようになる。家政夫として透の世話をするうちに、鹿住の家が代々「祓い屋」をしていることを知った秋生は、透の幽霊祓いに同行することに。いつも同じ時刻に駅のホームに現れては、自身の死をなぞるかのように飛び込みを繰り返すという幽霊を透がどのように祓うのか。それを知ったとき、なぜ霞書房が舞台なのか分かると思う。これが1話目の「二十一時三十八分の幽霊」。

写真はイメージです。

 2話目「二〇一号室の女」はホラーテイストが強くて個人的には大好きな話だった。「視点が変わるとものの見え方が変わる」というのを頭ではわかっていても、ハッとさせられてしまう。生きている者と幽霊、本当に怖いのはどっちなのかと考えさせられる話だった。

大号泣間違いなしの仕掛けが!

 ここまでの私の紹介を読んで、「面白そうだけど、なんか地味かも」と思いました? そうでしょうね。ネタバレを踏まないように書くとそう感じますよね。でも、違うんですよ! この作品、うまーく読者を誘導しながら面白く書かれているんですよ。「へえ、いいじゃん」みたいな感じで余裕ぶって読んでいる読者が、あとで大号泣するように考えられているんですよ! いいんです。普通な気持ちで読んでいいんです。「なんでこうなの?」とか「都合が良すぎる設定じゃない?」とか思っていればいいんですよ! 私がそうでした! 澤村御影の手の内に踊らされていました! 

 3話目「ごっこ遊びの家」を読んでください。私の紹介がぼんやりとしていたのも分かると思います。私もこれから読む方には、まっさらな気持ちで読んでいただきたいのです。だんだん読みながら涙が止まらなくなって、洗濯物の乾いていないタオルで涙を拭けばいいんです。嬉しい、騙された。嬉しい、そして切ない切ない。とても悲しいと感じていただけたなら同士……と、心でガッツポーズをしてしまいます。

 どうすればそんな体験が出来るかって? まずはこの小説のページをめくるのです。澤村さんが初めて角川文庫以外のレーベルから出す本作。早く続きが読みたい! そして色々なひとに勧めたくなる作品です。