トランプ再登板後のアメリカ政治で、いま共和党を揺さぶっているのが27歳の動画配信者、ニック・フエンテスだ。主流派から「危険人物」として追放され、主要SNSからも締め出された彼はなぜZ世代の若者たちを惹きつけ、共和党を内側から分裂させ、さらには極右と極左を奇妙に接続してしまうのか。

「年長世代のエスタブリッシュメント」への怒りを武器に世代・党派・思想の境界線を越えて広がり、アメリカ政治が抱える亀裂を映し出すフエンテス現象。キリスト教思想が専門で宗教などの文化的背景とマインドセットの関係について研究する著者が読み解く。#1

 ※本連載は『終末とイノベーション』として書籍化される予定です

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再定義を迫られる民主党と共和党

 2024年にドナルド・トランプが大統領に返り咲き、第二次トランプ政権が次々と打ち出す従来とは異なる政策に、米国国内、そして日本を含めた国際社会も振り回された2025年。物価高や移民への厳しい取り締まりに対する不満から、ニューヨーク、シアトルを筆頭にいくつかの市長選で社会民主主義を信奉する民主党候補者が当選し、12月にもマイアミ市長選で30年ぶりに民主党が勝利した。

 しかし、2020年、2024年の大統領選で見られた、現行政権に対する、主に経済政策への不満から野党が勝つという状況の中に、未来の積極的なビジョンが存在しないのは言うまでもない。リベラリズムの終焉(ポスト・リベラリズム)が唱えられ、共和党が政権を握る今、民主党は、自身の思想的基盤を問い直す必要に迫られている。

 他方で共和党も安泰な状態とは程遠い。共和党は昨年の初めから、ウクライナ問題やイラン各施設への攻撃、エプスタイン文書の公開を巡って内部で意見を激しく対立させてきた。現在の共和党には、「反民主党」という一点でのみ一致する複数の集団(伝統的保守派、MAGA(トランプファン)、キリスト教福音派(テック右派))が相乗りしている。だからこそ、彼らが共通して支持する「保守主義」とは果たして何なのか、再考する必要が生じている。

 両党ともに党の進むべき方向を模索しなければならない状況で、民主党は、ニューヨーク市長選でマムダニが掲げた物語、つまり富裕層を諸悪の根源とし、経済格差による上下の分断を強調するバーニー・サンダース的なナラティブに収束していっているように見える。他方で、日々一層混乱しつつも、議論がより活発化しているように見えるのは共和党のほうだ。議論を挑発しているのは、現政権への批判も辞さないポッドキャスターや動画配信者(ストリーマー)などの右派インフルエンサーたち。その中で今最も注目されているのは、若年男性への支持を拡大しているZ世代のニック・フエンテスである。

Z世代の右派インフルエンサー、ニック・フエンテス氏 Modern-Day Debate, CC BY 3.0, via Wikimedia Commons

 反ユダヤ主義発言を理由にYouTubeなどあらゆるメジャーなプラットフォームから追放され、共和党のエリートから嫌われてきたフエンテスだが[1]、特に昨年から彼の若者たちへの影響力は無視できないものになっている。オンライン上で繋がったフエンテスのフォロワーたちはインターネットミームのカエルのキャラクターにちなんで「グロイパーズ」と自称しているが、すでに政府の職員などにも存在するとまことしやかに囁かれるようになった。

 昨年9月にフエンテスのライバルだった右派アクティビスト、チャーリー・カークが暗殺された際には、グロイパーズの仕業ではないかという噂が立ち、大手メディアにまで取り上げられた。10月には長年フエンテスを批判してきた政治コメンテーター、タッカー・カールソンが、突如態度を変更し、彼を自身のポッドキャストに招いた。このことは大きな波紋を呼び、共和党内に大きな亀裂が生じ、共和党の主要シンクタンク、ヘリテージ財団では、カールソンを擁護した所長に怒った幹部が大量に辞職する事態になった。

 また12月17日から4日間開催されたターニングポイントUSAのカンファレンスでは、副大統領のヴァンスをはじめ、名前は明示しないまでも明らかにフエンテスを共和党内に受け入れるか否かを巡って争う発言が続いた。共和党内にこれほどの激震をもたらした27歳の青年、ニック・フエンテスとは果たして何者なのだろうか?

2025年、テキサス州で開催されたイベントで話すカークとその妻エリカ・カーク Gage Skidmore, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons

フエンテスが時代を味方につけた理由は「年長世代のエスタブリッシュメント 」への批判戦略にあり

 イリノイ州のシカゴ近郊で生まれ育ったニック・フエンテスは2016年に高校卒業後、2017年にライブストリーミング『アメリカ・ファースト』を始めた。同年にヴァージニア州シャーロッツビルで開催され、死者も出たことで非常に悪名高い白人至上主義集会「ユナイト・ザ・ライト」への参加をきっかけに注目され、ボストン大学を中退し、自身の活動に専念するようになった。本人いわく2016年の大統領選に登場したドナルド・トランプによって、白人人口の数的な減少、移民問題を知り、穏健保守から明確な「アメリカ第一主義(America First)」者、ナショナリストに変わったという。

MAGA ©Unsplash

 フエンテスはまた、大学時代にユダヤ系アメリカ人の保守の論客、ベン・シャピーロのメディア「ザ・デイリー・ワイヤー」の関係者と関わるなかで、アメリカの保守派が一様にイスラエル支持であることに疑問を抱くようになったという。その疑問をSNS上で発したところ彼はシャピーロから激しい非難を浴び、ここから米国のイスラエル支持反対はフエンテスの主義主張の核となった。他国であるイスラエルの利益を追求することは米国の国益最優先から明らかに離反しているというのがフエンテスの考えである。

 アメリカ第一主義と親イスラエル政策批判。前者は現在のMAGAのポリシーであり、後者はMAGAのポリシーを否定し、その自己矛盾を真っ向から批判するものである。この二大ポリシーには、「極右」と言えるより暴力的なポリシーが紐づいている。 

 例えば前者にはキリスト教ナショナリズム、グローバリゼーション批判、白人至上主義、移民排斥、反フェミニズム、それに伴う有色人種差別、女性蔑視が連なり、後者にはホロコーストへの懐疑や反ユダヤ主義が連なるといった具合だ。ここで挙げた差別主義的な主張についてフエンテスは、明らかにそのように聞こえる発言をしつつも、尋ねられればそれは自分の主義ではないと否定してはいる。

 フエンテスは上記の主義主張を、全体として「年長世代のエスタブリッシュメント(既得権益層)に対する若い白人男性の怒り」としてパッケージすることで「正当性」を担保し、彼と同世代、同じ属性の男性たちの心を掴んできた。

 つまり国内産業の衰退、移民の増加、家賃・学費の高騰の結果、働けない、結婚できない若い白人男性の苦境を強調し、アメリカ第一主義と親イスラエル政策批判を、迫害される集団の当然の自衛的反応として正当化してきたのだ。フエンテスは、実家の地下室からストリーミングを始め、自らを、政府の失策の「被害者」であるニート〔=就学も就労もしていない状態〕でインセル〔=非自主的に異性との性交渉ができない状態〕の若年男性の代表として明確にキャラクター付けした。

 フエンテスはMAGAと同様にアメリカ第一主義や白人至上主義を掲げ、民主党を批判するが、彼の戦略の核心はむしろ共和党の中心的立場である親イスラエルを批判すること、そして上の世代、特に「ブーマー〔戦後のベビーブーム世代〕を批判するという、世代上そして権力上の上下を強調する点にこそある。この戦略によって、フエンテスは時代を味方につけることに成功し、イデオロギー的な左右を超えて影響力を及ぼしている。

フエンテス支持者vsマムダニ、サンダース、グレタ支持者 反イスラエルで奇妙に一致する極右と極左

 親イスラエル政策批判について言えば、2024年のピュー・リサーチ・センターの調査でも明らかなように、アメリカの民主党支持のZ世代では、パレスチナに同情的な意見が圧倒的に強く、共和党支持であっても他の世代よりは親パレスチナの割合が高い。

 例えば左派の活動家グレタ・トゥーンベルグ支持を表明しているグロイパーもいるように、一見正反対に見えるフエンテス支持者(極右)とグレタ支持者(極左)は、反イスラエルという一点では一致できるようになる。しかもこのケースでは、白人であるグレタがパレスチナに援助物資を届けに行くことは、白人のキリスト教宣教師が未開の地に啓蒙しに行ったのと同じだという右派文脈に即した再解釈がなされ、極右から極左への越境が起こっているのだ。

グレタ・トゥーンベリの自伝を読む女性

 また後者の「ブーマー〔=戦後のベビーブーム期に生まれた世代〕」を敵視する姿勢は、党派を越えZ世代に共有されており、リベラルが多いミレニアル世代の一部にも共有されている。

 例えば昨年12月には、ミレニアル世代の白人男性が、2010年代にブーマー世代の白人男性によって主導されたアファーマティブ・アクション〔=マイノリティを優先的に採用する方針〕の犠牲になり、雇用において不利な立場に置かれたという告発記事がSNS上で大きな話題になった。ブーマー世代の白人男性が自分の罪悪感の解消のために自分より若い白人男性から雇用を奪ったという分析は、リベラルな年長世代に対するミレニアル世代やZ世代の男性の不信感、その結果としての右傾化を説明するものだった。フエンテス率いるグロイパーズ戦争は、こうした2020年代の空気に見事に連動し、影響力を拡大している。

「世代を超えた運動」になりつつあるグロイパーズの戦い

 このように世代や経済格差といった上下の対立軸を強調することで左派と一部融合する傾向は、最近のフエンテスの方針転換によって一層鮮明になっている。フエンテスは自身の親イスラエル政策批判の立場が、ユダヤ人個人に対する差別や反ユダヤ主義ではないことを示すために、矛先をユダヤ人自身ではなく、ユダヤ人の富と結びついた既得権益層、寡頭政治に向ける方針にシフトした。このように語り直したことで、年長の白人男性で占められた少数の既得権益層に対して不満を持つ人々が全て、フエンテスに共感することが可能になった。

 この既得権益を持つ富裕層を敵視するという見立てにおいても、フエンテスの戦略は、結果的にサンダースやマムダニを支持する極左に接近している。グロイパーズとまで言えないライトなファンは、Z世代の白人男性を超えて、Z世代以外の白人男性や有色人種男性、そして若いリベラル女性を含む、様々な世代の女性にまで広がっているようだ。

カエルのミーム「Pepe the frog」が極右集団グロイパーズのシンボルに Tomasz Molina, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons

 フエンテスのストリーミングの後半部分、リスナーによる質問コーナーを見ていると、アフリカ系、ラテン系、イスラム教徒など、フエンテスが白人至上主義の名の下に排斥しようとしている集団にも多くのファンやリスナーがいることがわかる。グロイパーズが好む言い方では、彼らの戦いはもはや「世代を超えた運動(generational run)」になりつつあるのだ。

【著者プロフィール】
1973年ニューヨーク生まれ。専門は哲学・キリスト教思想。博士(学術)。関西学院大学神学部准教授。東京大学21世紀COE研究員、南山大学人文学部准教授を経て、現職。宗教などの文化的背景とマインドセットとの関係について、何かを神聖視する心理に注目しながら研究している。


[1] 2019年にラッパーのYe(カニエ・ウェスト)がトランプ大統領(当時は大統領ではなかった)の会食にフエンテスを同行した際には、トランプに対して激しい批判が生じた。

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