北アメリカで生まれたジャズやブルース、そしてキューバやブラジルなどカリブ海・中南米諸国のポピュラー音楽は、どういうプロセスを経て生まれ、成長してきたのでしょうか。
ヨーロッパから来た移民と、アフリカ大陸から連行されてきた人たちがそれぞれの故郷から持ってきた音楽・文化同士の衝突や融合によって生まれたジャズやブルース、あるいはキューバやブラジルの音楽は、アメリカス(南北アメリカの総称)固有の芸術ではありますが、世界中のさまざまな地域の音楽が複雑にミックスされたものだとも言えます。
1492年のコロンブスのアメリカ到達から始まった、世界規模の大きな「人と文化」の移動、そして社会の変動によって生まれた音楽のゆくえを、「世界史」の動きと共に概観してみようという意図のもとに、本書は書き始められました。
世界経済を動かしたヨーロッパ―アフリカ―新大陸の三角貿易。ジャズをはじめとする世界的なポピュラー音楽の誕生と展開には、そこで生じた未曽有の人口移動が大きくかかわっていました。そして戦争や差別、それらに対する抵抗も、音楽のなかに流れています。
第1章と第2章では米国南部の港町ニューオリンズでのジャズの誕生と、ジャズが国際都市ニューヨークでさらに多様な文化からの影響を受けたさまを概観していきます。
第3章ではジャズが大西洋を渡ってヨーロッパに伝わった時期のトピック、第4章と第5章ではジャズとカリブ海音楽・ブラジル音楽の相互影響のさま、第6章では、アフリカの伝統音楽がアメリカスの音楽に与えたものと、数百年後にジャズやラテン音楽がアフリカに「帰還」した結果生まれたアフリカの大衆音楽についての話をします。
「アフリカン・ディアスポラ」(アフリカからの離散)という言葉をお聞きになったことがあると思いますが、本書で採り上げている音楽は、すべて「アフリカン・ディアスポラ音楽」だと言えるでしょう。最終章にあたる第7章では、まず米国における黒人差別とそれに対する抵抗運動を、ジャズとの関わりで概説します。そして、現在ジャズ・シーンで活躍しているミュージシャンたちが、「アフリカン・ディアスポラ」の末裔として、自分たちの背負っている「歴史」をどのように捉え、何を思っているかについて、本書のまとめとして紹介します。
なお、各章に参考音源として、Spotifyのプレイリストを作成しました。章の扉にあるQRコードを読み取っていただくと、プレイリストを聴くことができます。
時間的な広がりとしてはコロンブスから現在までの五百数十年、地理的広がりとしては南北アメリカとカリブ海、ヨーロッパ、そしてアフリカ。ジャズをはじめとするアメリカスの音楽を、世界の歴史的・地理的な広がりの中に置いてみて、見えてくるものは何なのでしょう。音楽を通して、ダイナミックな人と文化の旅にご一緒していただければ、著者としてこれに勝る喜びはありません。
「はじめに」より






