グループサウンズとは何なのか。何だったのか。
思えば折に触れそのことを考え続けて来た人生! とはいささかオーバーなれど、これまでもGSについて書かれたものは、まぁ結構目を通してきた方だとは思う。それで異論というほどでもないのだけれど、率直に申せば、それこそやれ“B級”だのなんだのと、いささかマニアックな内容のものが多過ぎやしまいか?
無論。私も風流は決して嫌いとはいわぬ。
しかし。誰もが知るヒット曲でお馴染みの、素人にもそれと名のわかるグループに出来得る限り焦点を絞り、ムーヴメント/ブームの検証を試みるという“全然渋くない企画”もあってよいのでは?
そんな気持ちが年を追うごとにますます強くなってきた。とはいえ一冊ものするとなればそれはそろそろ手をつけないとまずい。なにせ私も、もう古希を過ぎているのだから!
という訳で、とりあえず大まかなフォーマットを考えた。
まずブーム前夜の様相や背景のざっとした解説(てか豆知識ですかね)から“カテゴリーとしてのGS”の定義へと進み、一種社会学的にその興亡の意味などを考察するといった構成を組む一方、当時GS界のトップに君臨していたアーティスト、また重鎮作家に、インタビューのカタチで話を聞くという二本立てはどうか。
イメージは固まった。
取り上げるのは、スパイダース、ブルー・コメッツ、タイガース、テンプターズ、ゴールデン・カップス、ジャガーズ、オックス、ワイルド・ワンズ、ヴィレッジ・シンガーズ。
それぞれ大ヒット曲を持つGSを代表するグループだが、バンドとしての生い立ちや方向性はそれぞれバラバラだ。
この9組の発生から消滅に至るまでを、発表されたレコードそれぞれの印象とともに時系列的に追ってみることでGSの輪郭、本質はある程度浮き彫りになってゆくのではないか。
インタビューに関しては、こちらは検証というよりもう少しざっくばらんな、シーンの空気/ブームの裏側などが思い起こされるような方向のものが良いかもしれないと考えた。
日頃から懇意にしてもらっている元ゴールデン・カップスのエディ藩(通称コウちゃん)から、元タイガースの瞳みのるさんとはGS時代以来の付き合いがずーっと続いているという話は前に聞いていたので、これは渡りに船。是非ともご両人にまずは登場願わねば! 何といっても、同じGSとはいえ両極端に位置するのがこの二つのグループであるのは周知のこと。「貴重なエピソード満載の巻」にならぬ訳がない。瞳みのるさんの連絡先はコウちゃんから教えてもらった。
重鎮作家は鈴木邦彦さんと決めていた。というのも邦彦さんはGSのみならず、時の“和製ポップス”の立役者だったからだ。そのあたりの時代の業界ならではの匂いなどについても一度は詳しく伺っておきたかったのである。
お願いをしたら邦彦さんは快く取材を引き受けてくださった。本当にありがとうございます。
そんな感じでお膳立てがととのえば、あとはライターの下井草秀の都合だけである。あいつも忙しいからなぁ……。
下井草とはふた回り近くも歳が離れているのに、何について話をしようとも、まず大抵の場合、年齢差を感じることがない。無論、それはなにより下井草の際立った情報収集能力の賜物ではあるのだけれど、今回もまた然りで、GSといえば下井草の生まれた頃の出来事なのである。それがよくもまぁ俺のような専門家(笑)! を相手にこれだけ自然なやりとりが出来るものだと感心してしまった。とはいえ流石にこれはリアルタイムを経験していないなと思わせる場面もいくつかあった。
例えば冒頭。下井草によれば、アストロノウツのヒット曲「太陽の彼方に」は、日本語歌詞のカバーヴァージョンが話題になったというのだが、私の記憶では当時これはそこまでの反響はなく、ちゃんとヒットしたのは、ずっとあとゴールデン・ハーフがリバイバルで吹き込んだ時である。
一体下井草のアタマのなかにはどんなGSの世界が広がっているのだろう? それであえてゲラ修正をしなかった箇所もある。
いずれにせよ、この名編集者は、一を聞いて十を知るというか、それこそ私の言葉に足らなかったものをさりげなく、さも私の発言のようにして混ぜたり加えたりして、もっともらしいものに仕上げてくれるのである。
いつも感謝です。
おかげさまでこうして素晴らしい形にすることが出来た。
ごく私的なGSの思い出ゆえ、つっこみどころも満載ではあるが、話の種にはなると思う。皆様には楽しんでいただければ幸いである。
「まえがき」より