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「他には?」
「〈ギャル・イン・キャリコ〉の入ったマイルス・デイビス。」
今度は少し余分に時間がかかったが、彼女はやはりレコードを抱えて戻ってきた。(『風の歌を聴け』)
村上春樹という新人作家の『風の歌を聴け』という小説を読んだのは1979年、私が大学4年の秋だった。手元にある単行本の奥付を見ると「1979年7月25日第一刷発行 1979年10月16日第四刷発行」となっている。たしか「ポパイ」のブックレヴューで「ミントガムを噛みながらビールを飲んだような読後感」とかいう、今にして思えば笑っちゃうような形容で紹介されていて、それを読んで買った記憶がある。時代ですねえ。
『風の歌を聴け』のテーマ・ミュージックがビーチ・ボーイズの「カリフォルニア・ガールズ」だということは誰もが認めるだろうけど(大森一樹監督による映画のテーマ曲もこの曲だった)、ジャズについては、「僕」がレコード屋で「〈ギャル・イン・キャリコ〉の入ったマイルス・デイビス」を買うこのシーンが印象に残った。そのころの私はすでにいっぱしのジャズ・ファンを気取っていたのだけど、恥ずかしいことにそのアルバムを知らず、いろいろ調べてそれが『ザ・ミュージング・オブ・マイルス』という、1955年に録音されたワンホーン・カルテット作だということを知ったのだった。マイルスの作品の中ではあまり知られていないものの一つだけど、とてもチャーミングでキュートな演奏が聴ける愛すべきアルバムだ。
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