文庫シリーズで活躍が目覚ましい作家に贈られる第11回吉川英治文庫賞を、石田衣良さんが「池袋ウエストゲートパーク」シリーズで受賞しました。「池袋ウエストゲートパーク」は、池袋を舞台に、トラブルシューターのマコトがストリートギャング・Gボーイズの“キング”タカシらとともに、闇バイトや過激な推し活、外国人労働者といった、現代社会を象徴する問題を解決するミステリーシリーズです。
「IWGP」の愛称で親しまれる同作は、常に時代の一歩先を照らし出す鋭さにも定評があり、1998年にシリーズ1作目の単行本が刊行(文庫本1作目は2001年刊行)され、2000年にTBS系列で放送されたドラマも大きな話題となりました。
同シリーズは現在も雑誌『オール讀物』で最新作を連載中。ことし9月には単行本と文庫の新刊の発売も予定されています。受賞した石田衣良さんが、3月5日、受賞記者会見で喜びを語りました。
気負わずに続けてこられた
――受賞のお気持ちと、このシリーズにかけた思いをうかがえますでしょうか。
石田 IWGPシリーズは、一つの型が出来上がっているので、その時その時の新しい事件や世相をその型に放り込み、さっと仕上げるという風に書き進めています。バーに行くと、ルッコラの胡麻和えみたいな気の利いたおつまみが出るじゃないですか。僕にとって池袋のシリーズは、そんなバーのおつまみのような小説です。
(以下、取材会見での一問一答)
――文庫第1作が刊行されたのは2001年ですが、ここまで長く続けられるとご自身で想定されていましたか。
石田 僕のデビュー作でもある『池袋ウエストゲートパーク』は、実は、小説現代新人賞に送る予定だったんですよ。ですが、2週間ほど締め切りが過ぎていて、そのときに文藝春秋のオール讀物推理小説新人賞なら間に合うと気が付いたんです。間に合わなくて送ったその賞を受賞してデビューしたぐらいのことなので(笑)、ずっと書くなんていうことは考えてもいませんでした。
こうして、21冊(単行本)のシリーズを書いてしまったことも、不思議な気がしますね。巡り合わせが良かったというのと、やはり気負わずに続けてこられたということが良かったのかもしれませんね。
――世相を放り込んでとおっしゃってましたが、まさにトクリュウや、宗教2世のような、リアルタイムの問題を取り入れているところがシリーズの醍醐味だなと思います。石田さんは、どのように社会をご覧になってらっしゃるのか、そして題材をどのように作品に盛り込もうと考えているのかということを教えてください。
石田 皆さんと同じだと思いますね。毎日触れるもの、テレビでもネットでも本もそうですけれど、その中で自分のアンテナに引っかかるものを探しています。
今用意している、22冊目のIWGPの新作単行本では、例のゾンビタバコと言われる(指定薬物の)エトミデートの中毒であるとか、風俗スカウトのグループの話などを描いています。アンテナに引っかかってこれは面白いと思うことを、拾い上げるだけなんですよね。
なので、逆に言いますと、このシリーズはそういったいいタネが1個ピックできると、ああ、もう書き上がったなと分かります。ストレスのかからない一番自然体な文体や、スタイルで書くことができていると思っています。
僕にとって土星はラッキースター
――デビュー作であり石田衣良さんの代名詞であるIWGPシリーズですが、作品を書き始める前日にコンビニで女性誌の星占いを立ち読みしたと聞きました。そこには衣良さんの星座について、「土星の影響で運気が変わる」と書いてあったとか。
石田 文藝春秋の『CREA』という女性誌の96年4月号でした。牡羊座はこれから2年間、重圧の象徴の土星の影響下に入る、と。その2年の間に、自分の中にある何かをクリスタライズ、つまり結晶化させると良い、という占いだったんですけど、それを読んで「あ、これはじゃあ小説を書けということなんだな」と思って書き始めました。
それで、その重圧の星が抜けた2年後に、初めての本が書店に並んでいたので、占いはぴったり当たっていましたね。それから30年ほど経ち、今年の2月14日に再び重圧の星である土星が牡羊座にやってきました。なので、今年はきっといいことがあるなと思ったら、こういうことがあったわけです。僕にとって、土星はラッキースターでしたね。
――この作品は、初稿がもうほぼ最終稿になるというお話は本当なんでしょうか。
石田 小説は推敲して直すと良くなるという人もいるんですけれど、僕は直すのが嫌いなので、直さないようにしようと思っています。
――若者を書き続けていらっしゃいますが、若者の変わらない特質を石田さんはどのように考えていますか。
石田 もう若者を描いてるつもりは僕は全くなく、今目の前で起きている世界のことをできるだけ鮮やかに書き留められるといいなと思って書いています。正直に言うと、最近の若者に関しては、歳を取ったせいか「なっちゃいねえな」とは思いますけど(笑)、もう仕方がないですよね。
――池袋の風景もだいぶ30年で変わったと思いますが、今でも池袋には足を運ばれていますか。
石田 たまに行って、街の様子を見て写真を撮って、ということはしています。ただ、以前しばらく池袋に住んでいたことがあり、もう街が手の内に入っているので、あまり調べるということはないですね。
――約30年前から書き始められ、長く続いているシリーズなので、読者の方も幅広い年代になっていると思います。読者からの反響などで実感される部分はありますか。
石田 「これから結婚するんです」とカップルでサイン会にいらした方が、何年後かに本当にお二人のお子さんと一緒に来てくださったことがありました。時代が流れるし、やはり読み手の方も年齢を重ねていらっしゃるんだな、ということは感じます。
でも、実は、作家の中には一人、“自分にとっての理想の読者”みたいなものがいて、その人物は、性別も関係ないし歳を取るということもないんですよね。なので、自分の中にいる誰かに向かってコツコツ書いているという気がしています。暗闇の中で、こう、石でも投げるように書いているって感じが、小説にはあるんですね。
――主人公のマコトの見解は、石田さんご自身の見解と考えてよいのでしょうか。
石田 95%ぐらい僕の見解ですね。マコトは工業高校卒で、果物屋の店番なんですけれど、書きながら自分でも「こいつはなんてセンスがいいやつだ」と呆れていることがあります(笑)。
(3月5日、都内ホテル記者会見場にて)












