手を重ねて観える未来が心を癒す時代小説

『豆は煮えたか』(朝井まかて)

 深川佐賀町の水茶屋「ささげや」の女将・お玉。彼女は、人の掌に触れると、その人の「人生の束の間が観える」という不思議な力を持っています。悩みを抱えた人々が「豆は煮えたか」という符牒を合図に彼女を訪れ、その不思議な力に導かれていきます。お玉自身も、悲しい事故で夫を失っています。お玉をはじめ、人知れず特別な力を持つ者たちが織りなす連作短編集です。

 ささげやの女将お玉は、名物の豆餅を売る水茶屋を営んでいます。しかし、彼女にはもう一つの顔がありました。訪れる客の掌に触れることで、その人の未来を垣間見る力。それは本人が望んだものではなく、彼女自身も「あまり気の進む生業ではない」と感じています。

 しかし、夫と営んでいたささげやの名物、豆餅をお玉はどうしても上手くつくることができません。女の腕で餅をついても目指すものはできず、小豆を煮ても火加減、塩加減、砂糖の加減までまるで見当違いで、恋しい味にならないのです。客の評判も下がるいっぽうで、どのみち来ない客を待つならと、気が進まないながらも求められると占いをしています。

 あるとき、親の決めた縁談と想い人との間で悩む娘、おこうが店を訪れます(「豆は煮えたか」)。お玉の力は、ただ未来を告げるだけでなく、相談者が自らの足で幸せな道を選ぶための、ささやかな道標となっていきます。

 本作の魅力は、お玉だけにとどまりません。物語が進むにつれて、それぞれ異なる不思議な力を持つ人物たちが登場し、彼らの運命が交錯していきます。不思議な力を通して描かれるのは、懸命に生きる人々の姿であり、彼らを支える温かな人の縁。登場人物たちが紡ぐ優しさに触れるたび、心がじんわりと温かくなる。読み終えた後、ささげやの豆餅が食べたくなるような、滋味深い一冊です。

詳しく見る


発売ラインナップ (2026/4/5~2026/4/11)

発売日のリンクをクリックするとGoogleカレンダーの登録画面が表示されます

  • タイトル
    豆は煮えたか
    著者名
    朝井まかて
    発売日
    2026/04/08
    作品紹介
    手を重ねて観える未来が心を癒す時代小説
    ささげやのお玉は、掌に触れると未来が観える。悩みを抱えた人が「豆は煮えたか」を符牒に、豆餅が名物の水茶屋に集う連作短編集。
  • タイトル
    私たちはたしかに光ってたんだ
    著者名
    金子玲介
    発売日
    2026/04/09
    作品紹介
    2026年の青春小説はこれに決まり!
    私が心から愛し、だからこそ辞めたバンドが今年、紅白に出る“あの時”と“今”が互いを照らしあって進む、新体験の青春小説。
  • タイトル
    ぼけていく私
    著者名
    佐藤愛子 杉山響子 杉山桃子
    発売日
    2026/04/09
    作品紹介
    愛子センセイ最後のインタビュー
    現在百二歳の愛子先生が施設に入る前、人生後半や長生きについてユーモアを交えて語り、娘と孫がその知られざる姿を語り尽くす。
  • タイトル
    倫理的野心を持て
    著者名
    ルトガー・ブレグマン 野中香方子
    発売日
    2026/04/10
    作品紹介
    あなたはブルシットジョブを続けるべきか?
    現代において最も浪費されているもの、それは才能である。欧州の“未来を信じる知性”による、21世紀の究極の“自己啓発書”。
  • タイトル
    理不尽仕事論
    著者名
    坂井風太 ぐんぴぃ
    発売日
    2026/04/10
    作品紹介
    理不尽を愛せば、仕事はもっと楽しくなる!
    あなたの悩みはただの“あるある”かも? 人材育成のプロ&“バキ童”の異色コンビが贈る、笑えて役立つ令和のビジネス書!