インタビューほか

傷心と喪失の"その後"を生きるために

「本の話」編集部

『ときぐすり』 (畠中恵 著)

 

麻之助とおこ乃の「これから」は?

――「きんこんかん」では、清十郎と対照的なカタブツの吉五郎がとつぜんモテ始める物語が描かれます。清十郎がふられる「たからづくし」の直後に読むと、非常に印象深く感じます。

畠中 もちろん吉五郎さんが大モテになるのは裏の事情があるわけですが……。団子屋を開く「おきん」、汁粉屋を開く「お紺」、煎餅屋を開く「お寛」の「きんこんかん」と、貞の手下の「銀次」「権助」「岩太」の「ぎんごんがん」、その言葉の語感とゴロも楽しんでもらいたい物語です。

――「きんこんかん」では、最近ますます亡くなったお寿ずに似てきたおこ乃が、はじめて麻之助のことを意識しますね。 「私、麻之助さんのこと、どう思っているのか、な」と。麻之助もおこ乃をいつもお寿ずに見間違えていますし、このふたりの関係も、これからがとても気になりました。

畠中 私も気になります(笑)。江戸時代は今より夫婦が別れることも死別することも多かったので、当然再婚することも珍しくはなかったはずです。でも仮の話としても、お寿ずそっくりのおこ乃ちゃんが、麻之助の「後添い」でよいのかどうか……。

――難しい問題ですね。2人ともお寿ずのことは意識せざるを得ないでしょうし。

畠中 ネットで「後妻の大変さ」を綴ったサイトを見たことがあったのですが、そこでは「前妻さんの写真をどうするか」から始まって、とても複雑で微妙なことが書かれていました。単純にそれをおこ乃ちゃんと麻之助に当てはめるわけではありませんけど、再婚と後添いの問題は一筋縄ではいきませんね。……本当に2人はどうなるんでしょうか(笑)。でも、おこ乃ちゃんと麻之助のことも含め「別れること」「死ぬこと」「その後をどう生きるか」ということは、このシリーズの大きなテーマです。

――確かにそれは通底するテーマになっていますね。「すこたん」では麻之助がお茶と皿、どちらが大切なのかという馬鹿馬鹿しい裁定をした後、しばらくして同じ相手からあらたな裁定を頼まれます。今度の裁定には「緒すな」という、わがままだけれど持参金が高い女性との縁談のことが絡んでいて、問題が複雑でした。緒すなは疱瘡を患ったことがあり、あばたが少し顔に残っています。

畠中 江戸時代、あばたに悩む女性は相当多かったみたいですね。「疱瘡は器量定め、麻疹は命定め」と言われていましたし。病気から命が助かっても、あばたは顔に残ってしまったケースは多かったと思います。

――物語の結末近く、わがままな緒すなは危機に陥ります。その危機から緒すなを救ったのは、とても意外な人物でした。そしてその後の物語で、その人物と緒すなが縁づくことが暗示されます。

畠中 持参金や家柄とは違うところで縁づいた方が、緒すなさんにはいいんじゃないでしょうか。子供ができたりすれば、おかみさんとして、きっとしっかりした人になると思います。

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ときぐすり畠中恵

定価:本体1,400円+税発売日:2013年05月29日


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