バブル後期を描いた傑作『生誕祭』刊行から11年、その続編はスピード感あふれるコンゲーム小説だ。
地上げで大金を掴んだものの、全てを失って表舞台から遠ざかっていた美千隆と彰洋は、10年後のITブームに乗り再起した。それを知った、かつてそれぞれのパートナー的存在だった麻美と早紀は、自分たちを捨てた過去の恨みを晴らすため、彼らの金を奪おうとする。駆け引きや騙し合いの末、大金を掴むのは誰なのか――。
「元々、続編は考えてなかったんだけど、『生誕祭』は自分の小説では珍しく主要な登場人物が死んでいないのもあって(笑)。あの時は美千隆以外は20代前半の若者だった。人は20歳から35歳の間の経験で基本が出来ると思っているので、彼らが10年分成長した姿を描きたかったんです」
美千隆と彰洋が作ったIT企業・メディアビジョンは上場し、さらなる株価アップをもくろんで、同業他社のK2を買収しようと、密かに株を買い増していく。一方、クラブの雇われママとなっていた麻美は詐欺師の桜田と組んでK2の社長・今井を色仕掛けで籠絡、さらには早紀に彰洋の現在の彼女・恵を見せることで復讐心を煽り、味方に引き入れようとする。
早紀が恵と顔を合わせる直前、対抗心から身の丈に合わないブランドのバッグを買って、服装とのギャップを麻美に指摘される場面など、馳さんが「大長編にならないよう、内面描写を削りつつも、エモーショナルさを損なわないよう苦心した」と語るように、ポイントを絞って描かれた男と女の細かい心理も読みどころの1つだ。
「普段からきっちりとしたプロットは立てないんだけど、序盤の山である早紀と恵の遭遇シーンをきちんと書けたことで、物語はこんな風に着地するなという手ごたえを感じました。
あと、安く買って高く売るという基本は同じだけど、土地と違って株は複雑なので相当勉強しました。調べると、当時は会社名にドットコムが付くだけで実体はなくても株価が上がったりする異常な状況で、ギャンブルよりろくでもないと思ったね(笑)」
大金がうずまく世界ながら、『生誕祭』の時代のお祭り騒ぎと比べると、どこか苦さを感じさせる筆致となっている。
「それは狙いどおり。バブルが良かったとは言わないが、あの頃と比べると日本人全体が小粒になっていると思う。若者が一発当てて金を稼いでも使い方を知らないんだよ。登場人物を通して日本の社会を抉り出そうとすると、こういう形になってしまうんです」
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