2014.08.22 書評

防災無線で津波避難を呼びかけ続けた
故・遠藤未希さんの母が綴った3冊の日記

文: 後藤 岳彦 (NHK記者)

『虹の向こうの未希へ』 (遠藤美恵子 著)

 東日本大震災直後から現地取材に入った私は、遠藤家を取材し続けてきた。だから、もう3年半近い付き合いになる。

 私と美恵子さんの会話は、取材というよりはおしゃべりに近い。時には夫の清喜さんや、遠藤家を訪れたボランティア、近所のおばあちゃんも会話に加わり、まるで井戸端会議だ。ノートを手にメモをとりながら、というようなことは少ない。

 この本の元になった日記を、美恵子さんに見せてもらった日もそうだった。

「後藤さん、これ、見てもらえる?」

遠藤未希さん(24=当時)が避難を呼びかけ続けた防災庁舎

 震災発生から2年半がたち、仙台から東京に転勤した私が久しぶりに遠藤家を訪ねた時のことだ。美恵子さんが日記を書いていることは、何となく普段の会話の中で感じてはいたが、突然の申し出に少々面食らってしまった。日記というものは、その人が心の内を書くもので、他人が不躾に見るようなものではない。家族にさえ見せたことがないというので、「本当に見ていいですか」と何度か念を押した。

 どうやら、美恵子さんとしては、文章で伝える仕事をしている私に、自分が書いたものを吟味してもらいたかったようだ。とはいえ、こちらにとっては美恵子さんが日記を書いていること自体が取材の対象だ。思わず、鞄に入れていたノートとペンをとって、日記を書き始めたきっかけなどを尋ね、メモしてしまった。

 私は震災後、美恵子さんと避難所で出会い、行方不明の娘を捜し続ける姿や、娘の死と向き合っていく様子を取材してきた。2万人近い犠牲者がいる中で、ひとつの家族にしぼって取材し続けたのには理由がある。かけがえのない家族を失い、生活の場も奪い去られた被災者が、決して消えない悲しみにどのように向き合っていくのか。その日々の姿を継続して伝えていくことこそが、この未曾有の災害の実態を伝えることになると信じてきたからだ。

家族旅行で富士山をバックに記念撮影。明るく仲のよい一家に悲劇が訪れた

【次ページ】「3月11日」が近づくたびにぶり返す感情

虹の向こうの未希へ
遠藤美恵子・著

定価:本体1,300円+税 発売日:2014年08月26日

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