- 2014.08.22
- 書評
防災無線で津波避難を呼びかけ続けた
故・遠藤未希さんの母が綴った3冊の日記
文:後藤 岳彦 (NHK記者)
『虹の向こうの未希へ』 (遠藤美恵子 著)
ジャンル :
#ノンフィクション
「3月11日」が近づくたびにぶり返す感情
しかし、美恵子さんが書き綴ってきた日記には、間近でその姿を見続け、理解していたつもりになっていた私でも、つかみ切れていなかった複雑な心の動きが刻まれていた。娘の死に自責の念さえ抱いた母としての思い。「決して忘れてはいけない」と語り続けられる「3月11日」が近づくたびに、ぶり返してしまう悲しみと後悔の感情。そんな心の奥底に秘めた思いが、未希さんへの手紙のように綴られていた。聞けば、日記をつけると娘への思いが募ってしまうという。日記が本当に美恵子さんにとって救いになっているのか、私にもわからなかった。
そんな中で、奇跡のように未希さんが母にあてて書いた手紙が見つかった。まるで日記への返事のように書かれた手紙。それをきっかけに美恵子さんは少しずつ前を向けるようになり、震災を語り継ぐ民宿「未希の家」の実現へと向かっていく。
民宿経営に関して全くの素人である美恵子さんと清喜さん夫婦の姿を見ていて、こちらもハラハラすることが多かった。部屋にテラスを付けるかどうかにしても、普段どちらかと言えば口数の少ない清喜さんと、美恵子さんとで意見が食い違い、侃々諤々のやりとりをする。不安なような、微笑ましいような気持ちで見守っていたが、気がつけば夫婦は前に進み続けていた。
「未希の家」は当初の予定より遅れたものの、この7月になんとかオープンにこぎつけた。いつも娘を感じられる場所、そして震災と「命を守るということ」を語り継ぐ場所は、この3年半を乗り越えてきた夫婦にとって、ひとつの結論であり、救いにもなっているのだろう。
いま、日記は3冊目に入った。これまで美恵子さんは、主に朝食後か寝る前に日記を書いてきたが、今は宿のお客さんを見送った後に書くという。内容も、これまでのように悲しい思いばかりではなく、「お母さん頑張っているよ」と、元気な自分を報告するようになった。美恵子さんは、娘のところに行く日まで、日記を書き続けていこうと考えている。
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