- 2015.01.29
- 書評
元メジャースカウトが見た「日本球界」の課題と『球界消滅』のリアリティ
文:小島 圭市 (元プロ野球選手、元ロサンジェルス・ドジャーススカウト)
『球界消滅』 (本城雅人 著)
出典 : #文春文庫
ジャンル :
#エンタメ・ミステリ
組織の内部から声が出てくるということが、どのような企業、組織においても進歩を促すと思いますが、野球界は、その形態になく、厳しいことは論じない風潮がメディアやファンにもあり、それは、つまり、市場の原理が働いていないといえます。
プロ野球界には、現在、育成枠という制度があります。これは、支配下登録選手の七十人に入れない、一軍の試合出場資格を持たない契約選手たちのことで、実力は一軍選手に満たないのだけれども、将来的な可能性が少しでもみえる選手と契約するということで始まりました。ところが、ある時から、もともとは支配下登録の選手であったものの、怪我を負って、今、活躍できないから故障が癒えるまでなど、安い金額で契約するための制度ということがまかり通ってくるようになりました。選手を安く契約できるという部分に目をつけた球団が、選手たちがプレーの機会を求めているという気持ちを利用したものになり、当初この制度が目指した在り方とは様変わりしています。しかし、この制度に対して、創設からまもなく十年が経つというのに「建設的な意見交換をして、作り直す」という声が内部から出てこない現状があるのです。また、制度開始から二十一年になるFA(フリーエージェント)制度についても同様で、この制度により、球団の経営状態は圧迫されているにも関わらず、改善しようという動きがみられないのです。
これが、今の野球界が抱えている弱さであると思います。
メジャーリーグでは、チームを司る役職にあるのがジェネラルマネージャー(GM)です。GMは監督の選任からドラフトでの新人選手の獲得、FAやトレードによる補強、マイナーシステムの構築など、いわば、GMの腹一つで選手やコーチなどすべてを動かす権限を持っています。もちろん、私がドジャースで十三年間勤めたスカウトも含まれます。
ところが、メジャーでは、この二、三年、そのGMの上の立場にあたるポストを各球団が作り始めました。GMがGMたる仕事をしているのか、その職務を監視するのです。ベースボールオぺレーショントップのGMが的確なビジョンのもとに人事、トレードを行っているかを評価する役職があるのです。
これは、いわば、組織の内側からチームを見ていこうというシステムのひとつであります。
本書の中で、日本の球団の赤字は親会社の広告宣伝費で補てんされるというのがありましたが、メジャーリーグでは、そのような経営は許されません。もし、球団がそのような経営をすれば、コミッショナーから勧告があるのです。『二年以内に是正しなさい』、『経営努力をしなさい』と通達がなされ、その努力が認められなかった場合には、オーナー権がはく奪されることがあり得ます。
私が読売ジャイアンツの現役選手だったころ、球団のオーナーであった正力享(しょうりきとおる)氏が、口癖のように仰られていたのは「チェック、チェック」という言葉でした。自分自身、身の回りのことをチェックしなさいということで、組織というものは、常に、周りから目を光らせ、厳しくみていかなければいけないのです。
本書が伝えようとしたもうひとつのメッセージはその部分にあるのかもしれません。野球界は、内側からの声が挙がることが極めて薄い組織であると先述しましたが、日米の野球界が合併するという本書が描いた新しい切り口は、内側からの組織改編の意見が出ない、野球界へのメッセージになるのかもしれません。
私は、アジアリーグ構想を現実的なものとして捉えていますが、チームを増やすことになるにしても、減らすにしても、究極の目標として掲げておくべきことは、メジャーリーグにいるトップの選手たちが移籍したいと思うようなリーグであることです。それこそ、日本の野球界が本当に目指すべきところだと思います。
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