インタビューほか

〈特集〉浅田版「新選組」
新選組が出ていったときはスッとしたそうです
八木喜久男(八木家十五代当主)

「本の話」編集部

『輪違屋糸里』 (浅田次郎 著)

――母子三人で?

 それはもう大変なことになっているわけですからね。弟の勇之助は右足を刀で斬られて怪我をしています。為三郎は十二、三歳。いまでいえば、ちょうど中学へ行くか行かないかぐらいですね。勇之助はそれより五つ、六つ下のはずです。

――でも、びっくりしたでしょうねえ。

 それは驚いたと思いますね。最後は芹沢の首が飛んだというんですから。おまさおばあさんは「首が飛んだ」とは言わずに、「首が胴から離れていた」と表現していたそうです。芹沢の腹心の平山五郎も、愛妾のお梅も即死状態でした。でもこの事件のことについては、外では決して口にしなかったみたいです。しっかりした、気丈な人だったようです。

――斬られた芹沢が、おまささん母子の寝ていた部屋の障子を蹴破ってきたということですが……。

 ええ、そうです。どうもその障子が邪魔になって逃げられず、幾太刀も浴びて刀を抜けなかったようですね。

――おまささんは芹沢たちを斬った者の顔も見ているんですか。

 ええ。どうも刺客は土方や沖田らだったと言っています。雨のものすごいきつい夜で、ひどく寝苦しかったようです。それでなかなか寝つかれなかったところに、芹沢、平山、平間重助が土方を伴って島原から帰ってきた。静かになったと思ったら、しばらくして庭に人の気配がしたそうです。おかしいなあ、もう帰ってきているのにと思っているうちに、乱闘が始まったそうです。

 うちでは、芹沢を襲ったのは近藤勇一派だということは定説になっています。はっきりと、土方だった、原田(左之助)だった、山南(敬助)だったという話が残っていますから。

――新選組について、ほかに何か聞いていらっしゃいますか。

 土方の話は、あまり残っていませんね。近藤勇の話はいろいろ聞いていますけど。

――たとえばどんな話ですか。

 近藤も芹沢も、刀が趣味で、好きだったとかね。

――お梅については何か残っていませんか。

 ああ、お梅はしょっちゅう台所に来ていたそうです、芹沢がいるときは。その当時、新選組が使っていたお碗や杯、お膳などもまだうちに残っています。

――芹沢鴨の暗殺事件があった前と後とで、八木家の様子は変わりましたか。

 芹沢派が粛清されてから、近藤勇以下、土方はじめ近藤の側近たちが移り住んできましたが、それ以外には取り立てて変わったことはなかったみたいですね。それより新選組そのものが変わったのと違いますか。ものすごくアクティブな組織になっていきましたからね。

――新選組は二年ほど八木家にいたあと、西本願寺に屯所を移します。新選組との縁は切れたんでしょうか。

 いやいや、本部が向こうへ行ってからも、まだみんなしょっちゅうここへ来ては、酒を飲んで帰ったらしいですわ。

――八木家の収支はどうだったんでしょうか。

 屯所を引き払う際、土方が、部屋を借りた寸志です、といって源之丞おじいさんに包みを出した。おじいさんは辞退したんですが、どうしてもというので受け取ったところ、中には五両しか入っていなかった。そこでおじいさんはその五両で酒樽を買って、西本願寺の屯所に届けたという話です(笑)。

――二年以上も厄介になっていたのにたったの五両! それにしても、源之丞さんの度量もたいしたものですね。

 新選組が西本願寺に移ったとき、おじいさんはしみじみ「やれやれ、スッとした」といったそうです(笑)。

――実感がこもってますね。きっと本心からそう思われたんでしょうね(笑)。

輪違屋糸里 上
浅田次郎・著

定価:本体590円+税 発売日:2007年03月09日

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輪違屋糸里 下
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